教員は「定額働かせ放題」への誤解が生む損失、給特法見直しに必要な視点 法の趣旨無視のネガティブキャンペーンの問題

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「定額働かせ放題」という表現は、少なくとも、2つの前提がある。

第一に、給特法をはじめとする現在の法制度が「働かせ放題」を容認ないし助長しているという認識。第二に、いわば「やりがい搾取」となっており、公立学校教員の給与水準は低く、割に合わないという認識である。ここでは、まず1つ目の前提について、本当にそうなのかを検討する。

※「やりがい搾取」とは、経営者が労働者の「やりがい」をアピールすることで、長時間労働や低賃金で業務を強いることを指す

悪名高い給特法だが「長時間勤務の抑制」に力点がある

実は、給特法の下では、校長はめったなことでは、時間外勤務を命じることができない。修学旅行などの学校行事や職員会議、災害対応などで、緊急性のある場合のみである(「超勤4項目」かつ臨時または緊急のやむをえない場合に限定)。典型的には、地震が起きて、学校が避難所になるケースなどであろう。

しかも、給特法第六条第2項では、超過勤務させる場合を定める政令は「教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない」と規定している。

こうした条文を素直に読む限り、給特法は「働かせ放題」を推進する趣旨があると解釈するのは、無理があるように思う。むしろ、本来の法の趣旨は、教員の健康を守ること、長時間勤務を抑制することのほうに力点がある、と捉えるのが妥当ではないだろうか。これは私の勝手な解釈ではなく、田中まさお先生(仮名)の訴訟など裁判例の中にも「教員の労働が無定量になることを防止しようとした」のが給特法の趣旨であると解釈するものもある。

言い換えれば、現行の給特法の下では、教員はかなり守られている、と捉えることも可能だ。例えば、近年、部活動の顧問をしたくない教員が増えているといわれているが、校長は(もちろん教育委員会も)、時間外に部活動指導に従事しなさいという職務命令は出せない。

「私は顧問をできません」と断ることは、ほかの教員への負担増や部活動の存続が危ぶまれるなどの実際上の問題は生じうるが、法的には何も問題ない。こうした理由で顧問に就かない教員も実際に出てきているし、ワーク・ライフ・バランスを重視する人は多くなっているようなので、顧問拒否は今後増えるかもしれない。

また、修学旅行などを引率する教員は徹夜覚悟で生徒の見守りや指導に従事する例が多い。宿泊先で火事や地震が発生した場合などは別だが、平穏時に教員の健康を害するような超過勤務命令は出せないので、「私は寝ますね」という教員がいても構わない(論点は少しそれるけれど、教員の健康の犠牲のうえに立つ修学旅行は大きな問題だと思う)。

「安全配慮義務」という防波堤と、在校等時間の上限指針

加えて、教員を制限なく残業させてはいけない仕組みは、ほかにもある。十分とは言えない側面はあるものの、ここでは2つの仕組み、ルールを紹介する。

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