石垣島が「陸上自衛隊」を受け入れた本当の理由 辺境から南西防衛と台湾有事を考える(上)
民主党政権が南西防衛を打ち出すきっかけとなったのが、2010年9月に沖縄県尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突、漁船の船長が逮捕された事件だ。中国政府は尖閣諸島を「自国の領土」だと主張し、尖閣周辺海域の日本領海への中国船の長時間の侵入をくり返すようになる。2012年9月に民主党政権が尖閣諸島を国有化すると、中国公船の領海侵入は一層活発となった。
尖閣諸島から約170km離れた石垣島の漁師にとって、黒潮が流れる尖閣周辺の海域はマグロやカツオ、イカ、沖縄で高級魚とされるアカマチやミーバイなどがとれる好漁場だ。だが、ときには1日以上も日本領海内を航行し、付近の日本漁船に接近する中国公船の存在のために、安心して操業できなくなっている。それ以上に、漁船の燃料の高騰や魚価の低迷もあり、「費用対効果が全然合わなく」なっている。
石垣の漁業関係者によれば、いま尖閣周辺で操業しているのは、「尖閣は日本領土だと主張する目的の船くらいだ」という。尖閣周辺を視察に訪れる保守系の国会議員たちは、八重山漁業協同組合に「出漁の既成事実をつくってほしい」と要望、「燃料代は国が出す」と言ってくるが実現していない。
地元漁船が尖閣周辺で漁をする場合、約1週間前に海上保安庁に連絡を入れ、操業中は海保船舶に漁船と併走して警備してもらう必要がある。地元漁師の側には「海保の任務を増やしてしまっては申し訳ない」と漁を控える心理がはたらくし、実際に海保の負担増になるので、国の負担で出漁というのは難しいのではないかという。
日台連携で地元に生じた2つの変化
尖閣の領有権をめぐる日中の対立の激化が、石垣島の漁師たちに与えた打撃はまだある。第2次安倍晋三政権は2013年、尖閣問題で台湾と連携しようとする中国を牽制するため、台湾側に有利な日台漁業取り決めを妥結。互いに相手国の漁船に自国法令を適用しない水域が設定され、台湾が自国水域だと主張していなかった水域2カ所までそこに含まれた結果、八重山諸島北部のクロマグロの好漁場が台湾の漁船に占拠されてしまった。
台湾漁船が投棄したはえ縄などの漁具で漁場が荒れたり、日本の漁船に台湾側のはえ縄が絡まり、日本側のはえ縄が切断されたりするなどの被害も発生。数百万円もする高価な漁具を壊されてはたまらないと、石垣などの漁師は八重山諸島北部での操業を控えるようになる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら