ホンダはなぜ「ニュルFF最速」に挑戦するのか 走り以上に「最速の称号」が重要であるワケ

拡大
縮小

しかし、知らない人にとっては、どこまでいっても「普通のクルマの派生モデル」にすぎない。逆に、見るからにスポーツカー然としたスタイルのモデルであれば、”ニュル最速”に強くこだわる必要はないといえる。

タイプRではない普通のシビック(EXグレード、写真:本田技研工業)

だから、“ニュル最速”をうたうのはFFベースの派生モデルや、BEV、FCEVといったスポーツイメージのないクルマなのだ。中でも、シビックやメガーヌ、ゴルフといったFFベースの派生モデルは、ファミリーカーとしても使え、価格もそれほど高くない一般ユーザーが買う量販が見込めるクルマである。だからこそ、“ニュルFF最速”の称号が重要となるのだ。

ホンダでいえば、シビックタイプRによる“ニュルFF最速”は、2017年4月にも先代モデル(FK8型)でも発表されている。

今やホンダ唯一のスポーツモデル

もちろん、ライバルがいる中で“ニュルFF最速”の称号を得るのは、簡単なものではない。

ニュルブルクリンク北コースは距離、高低差、うねり、大小73ものコーナーからなる難コースだから、単純にパワーを高めれば速く走れるわけではなく、ボディや足回り、ブレーキ……と、あらゆる部分を磨き上げ、クルマの総合力を高める必要がある。さらにタイヤも重要だ。

シビックタイプRのタイヤはミシュランとの共同開発品(写真:本田技研工業)

今回のシビックタイプRの記録更新には、タイヤメーカーのミシュランも協力している。同社はラップタイム更新のため、「MICHELIN PILOTSPORT CUP 2 CONNECT」というタイヤをホンダと共同開発した。

現在のホンダにとってシビックタイプRは、同社の唯一のスポーツモデルである。若者やスポーツカー好きにアピールするため、若々しく活動的なイメージをブランドに与えるには、シビックタイプRの話題性は重要となる。それが名声となれば、なおさらだ。

ニュルブルクリンク北コースが、これからも自動車メーカー各社にとってテストコースであること、そしてそのラップタイムが重要であることは変わらないだろう。ホンダにとってもそれは同じで、この先も“ニュルFF最速”の称号獲得が、シビックタイプRにとって必須のミッションとなることは間違いない。

この記事の画像を見る(12枚)
鈴木 ケンイチ モータージャーナリスト 

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

すずき けんいち / Kenichi Suzuki

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT