サイバー藤田氏「引退宣言」とアベマ黒字の手応え アベマの収穫期で問われるサイバーの"次"

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一方で株主に対しては積み残した課題もある。アベマを中長期で、広告とゲームに並ぶ利益を創出する事業に育てることだ。2022年9月期はゲームが605億円、ネット広告は244億円の部門営業利益をそれぞれ稼いだ。アベマを擁するメディア事業でも、年間200億円規模の部門利益を生み出せるかが問われている。

カギを握るのがアベマの広告収入だ。アベマ関連売上高は、競輪市場の拡大で急成長したウィンチケットが大半を占める。一方で広告や月額課金の成長ペースは緩やかだ。有料の動画配信市場において、ネットフリックスやウォルト・ディズニーといった世界的プレーヤーが苦心している現状を踏まえれば、月額課金モデルで稼ぐことは容易でないだろう。

期待できるのは広告収入となる。W杯を経て、広告主のアベマに対する出稿意欲は増している。JPモルガン証券株式調査部の森はるか共同部長は「大手の広告主にとってアベマを使い始めるきっかけが必要だった。テレビ広告の費用対効果が依然厳しそうな中、今回のW杯のようにきっかけさえあれば、ある程度の広告予算を割いてもらえるメディアに育っている」と分析する。

コンテンツ事業への本気度

次なる戦略として、コンテンツのIP(知的財産権)ビジネスも動き出している。子会社の映像制作会社・BABEL LABEL(バベルレーベル)は1月、ネットフリックスと今後5年間にわたる映画・ドラマの製作と、世界190カ国への配信を目的とした戦略的パートナーシップを締結した。軌道化すれば社外へのコンテンツ供給にとどまらず、先行・独占配信によるアベマへの誘客といった選択肢も考えられる。

アベマで配信するオリジナルコンテンツは若者を中心に支持を集めている(記者撮影)

同様の期待はアニメ事業にも寄せられる。藤田社長はアベマにおけるアニメ視聴量の多さに目をつけて以来、アニメプロデューサーを他社から引き抜くなど体制を拡充してきた。徐々にオリジナルアニメやライセンスビジネスに守備範囲を広げている。

グループ傘下のサイゲームスでは、漫画・アニメ・ゲームというIP創出とメディアミックス機能が整っていることもあり「アニプレックスや東宝に次ぐ、アニメ業界の新たなキープレーヤーになりうる」(アニメ企画会社首脳)と業界内からも注目が集まっている。

藤田社長が「21世紀を代表する会社を創る」と起業してから今年で25周年を迎えた。悲願だったアベマの黒字化を目前とした「引退宣言」は、サイバーエージェントの新たなフェーズを示唆しているのだろうか。

森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケティング、アニメ・出版業界を担当。過去の担当特集は「サイバーエージェント ポスト藤田時代の茨道」「マイクロソフト AI革命の深層」「CCC 平成のエンタメ王が陥った窮地」「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」など。

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