免許返納してもシニアが自由に動き回れる「翼」 WHILL杉江理はとことん困りごとを解消する

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実践の経営学を探究する井上達彦教授がディープテックを訪ね、ビジネスモデルをとことん問うてゆく。世界に羽ばたくイノベーションの卵に迫る。

WHILLモデル3
WHILL Model S(WHILL提供)
「今、私の願いごとが叶うならば、翼がほしい」
サッカー日本代表の応援歌としても有名な「翼をください」である。ここでいう「翼」は、多くの人にとって夢であり、憧れである。
昭和の時代を生きてきた現代のシニアにとっての翼は何かというと、それは自動車であった。大空に翼を広げるかのように、ハンドルを握り、駆け抜ける。当時はモビリティというようなしゃれた表現はなかったが、マイカーを運転することで自由を謳歌できた。
しかし、頑張ってきたシニアも自然の摂理には抗えず、視力・聴力・反射神経が衰える。そして、免許を返納しなければならなくなり、大なり小なり社会活動が制限されるのである。現役世代が考える以上に、免許の返納という出来事には喪失感が伴う。
だからこそ、シニアには翼が必要なのである。それが、WHILL株式会社のモデルSである。これは電動車いす規格でありながら、歩道を走れる電動4輪スクーターで、新定番のシニア向け移動手段として位置づけられている。
代表取締役社長の杉江理さんは、仲間たちとともに特にシニアや歩きづらさを抱える人に寄り添い、彼らのペインポイント(想定顧客の痛み=不快や不満に思う困りごと)からビジネスモデルを構築した。
今回は、このモビリティカンパニーに注目する。

井上:御社の事業について教えてください。

杉江:すべての人の移動を楽しくスマートにする、をミッションに掲げ、近距離モビリティのサービスと販売の2事業を展開しています。われわれはこれら2つの事業を通して、世界中のさまざまな場面での近距離用のソリューションを提供しています。

井上:歩行領域に特化したというのが一つポイントですね。そこに絞った理由は何でしょうか。

杉江:先進国を中心に高齢化が進んでいるので、歩行領域における移動が困難な方が増えています。歩行困難な方が世界で2億人いらっしゃる。

日本でいえば、免許の返納をする人が年間60万人前後いらっしゃって、その数は年々累積し、過去10年弱でも350万人程度に上ります。返納した後、移動をどうするのかが問題になっているんです。われわれはこの社会問題を、サービス、ないしはプロダクトで解決できないかと取り組んでいます。

免許返納というペインポイントに向けて

井上:WHILLさんは顧客のペインポイントと市場の広がりを示す統計とでは、どちらを先に見るのでしょうか?

杉江:顧客のペインポイントが先ですね、市場の広がりを調べるのはその後です。

起業家のタイプには2種類あると思ってまして、1つは何のトピックで起業するかを考えている人ですね。いろいろなものを調べて、チャンスがあれば起業する。もう1つは、これがしたいから起業するという人なんです。そういう人はだいたい、何も見ないですよね。僕は後者です。

井上:マーケットと対話しながら、痛み(ペイン)を拾ってプロダクトのデザインに活かすということですね。われわれは顧客洞察アプローチと呼んでいます。なかなか、できていない会社も多いように思われます。

杉江:カッコよくて、機能性が高いものを作るのが、問題を解決する方法だと考えたのです。シンプルにユーザーが求めているのは何かを考え、使ってもらったりしながら、Plan-Do-Check-Actionのサイクルを回して改良していく。

次ページユーザーのペインを開発に落とし込む
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