音楽がデジタル化で本当に失っているもの ヒット曲が出にくいのには、ワケがある!
ごく一部のプロフェッショナルしかコントロール出来なかった「音楽」をグッと身近にした点で、DTMは革命的な技術といえる。この技術はコストカットを余儀なくされた音楽制作の現場でも重宝されており、ミュージシャンのギャラ、スタジオの費用を圧縮する目的でも用いられている。
現代のポップスや大量の音源を制作するカラオケの分野などは、DTMでないと成り立たない側面もある。打ち込みでなければできない独特の演奏もたくさんある。
熟練の技が生かされない
ただし、弊害もある。そこにはあらゆる経験を積んだ熟練のミュージシャンやアレンジャーがいない。熟練の技でしか表現できない旋律やリズム感が得られない場合、時として似たようなサウンドが濫造される土壌になってしまっている。
スタンダードとなった名盤や名曲には、必ず優れたミュージシャンたちが参加し、素晴らしいグルーヴ感を生み出している。そして、優れた演奏は優れた歌唱を引き出し、優れた歌唱力を持つヴォーカリストが名演を生み出す。
大勢のミュージシャンが関わり、長い録音時間をかけて制作されるような作品は非常に生まれにくくなっていっている。今、この時代にそうした「クラシカルなサウンド」を追求するミュージシャンやアーティストも大勢いるが、かつてと比べるとそうした機会は圧倒的に減っている。リリースされてから何十年も聴かれるような大傑作の中には、大勢の才能、潤沢な資金、時間が生み出した作品がたくさんある。「The Beatles」後期のアルバムや「Pink Floyd」に匹敵するような作品が生まれにくくなる時代になりつつあるのかもしれない。これは由々しき状況だ。
今後は何が望ましいのか。DTMがさらに発展してその道の優れたクリエイターが生まれ、育ちながらも、圧倒的な技術と才能を持った職人たちが奏でる音楽も、これまで通り多く生み出されるのは理想的だ。両者が新しいサウンドに挑戦し、ユーザーはハッとするような音楽を次々と楽しめる。そんな時代が来たら、これから先も豊かな音楽文化を繋げることができるはずだ。
TBSテレビはソロボーカリスト・コンテスト「Sing! Sing! Sing!」(TBS系列毎週土曜深夜1時53分〜*一部地域を除く)という音楽番組を通じて、そうした場にトライしている。オーディション番組という形態を採っているため、歌唱するのはプロデビューを目指すアマチュアだが、プロですら多くの音楽番組ではカラオケで歌唱しているこの時代に、すべて生演奏、独自のアレンジで挑戦者たちに歌ってもらっている。
これは、とても手間も費用も掛かるが、ミュージシャンとのアンサンブルを歌唱の力に変えられるようなヴォーカリストを視聴者に選んでもらうには、こうしたプロセスを軽んじることはできない。歌が上手で、唯一無二の個性を備えるヴォーカリストが歌い、優れた編曲や演奏が歌唱にさらなる輝きを与える、そうした価値観をユーザーの立場からも求めていく時代になれば、そう遠くない将来、個性的で新しいサウンドが次々と生まれる時代がやって来るかもしれない。
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