エーザイ、熱帯病の治療薬で「7兆円価値」の真価 ESG活動の効果「見える化」に渦巻く期待と不安

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柳氏はエーザイのCFO(最高財務責任者)を務めた2015~2022年の間に、ESGの取り組みによる影響を会計上の数字として可視化し、企業価値につなげる方法論「柳モデル」を開発した。現在は早稲田大学大学院で客員教授として教鞭をとるほか、アビームコンサルティングに在籍し、このモデルを用いた企業の情報開示を支援している。

企業の行動が環境や社会にもたらす影響を金額換算する手法は、「インパクト会計」とも呼ばれる。国内ではSOMPOホールディングスや日清食品グループが開示するなど、大手を中心に導入の動きが増加。アサヒグループホールディングスは2023年中にも開示する意向を示している。

中でもエーザイは、先進的な取り組みで知られる。2021年の「エーザイ価値創造レポート」(旧統合報告書)では、短期的な利益向上策として削減されがちな人件費や研究開発費などを増やすと数年後のPBRが向上するという相関関係を、日本で初めて示した。

2022年には、前述の感染症に対する取り組みについて、ハーバード大学のデビット・フリーバーグ氏との共同研究の分析結果を開示。エーザイは2013年以降、LF治療薬をインドの自社工場からWHOへ供給し、これまでに20.5億錠を29カ国に無償提供してきた。

5年間の取り組みが7兆円の価値と試算

共同研究では、2014~2018年の5年間に行った治療薬の提供が、約7兆円の社会的インパクトを生み出したと結論づけた。薬を飲んだことによって感染を避けられた人、症状悪化を回避できた人たちが、生涯に稼ぐ金額や節減できる医療費を基に試算したものだ。

これを患者の平均余命で割ると、年平均ではエーザイのEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)とほぼ同等の1600億円の価値を生み出している計算となる。

リンパ系フィラリア症の患者
エーザイが治療薬を製造する感染症の患者。脚部のリンパ浮腫などに苦しむ(記者撮影)

柳氏はこの治療薬の無償提供がもたらす価値の可視化を、エーザイでの「集大成として」取り組んだと振り返る。

無償提供事業を始めて間もないころ、株主や投資家からは冒頭のような厳しい声が飛んできた。証券会社などを経てエーザイへ入社した柳氏は、「PRやESGの担当者とは違い、IRの立場では、この事業が企業価値を高めるという証拠を数字で示さなければならなかった」。そこで投資家の理解を得るため、事業投資の採算性を示すことで対応した。

具体的には、無償提供活動を行った場合とそうでない場合の、エーザイの新興国における長期的な売り上げを試算。治療薬の提供を通じて、これから発展する新興国でのブランディングが高まれば、将来的に売り上げも増えるというロジックだ。しかし、それでも「長期的な売り上げ予測は不確実だ、との批判があった」(柳氏)。

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