エーザイ、熱帯病の治療薬で「7兆円価値」の真価 ESG活動の効果「見える化」に渦巻く期待と不安
「これは寄付か」「株主から預かったお金でやることなのか」
13年近く前、当時エーザイのIR部長だった柳良平氏は、投資家や株主からの批判の矢面に立たされていた。事の発端は2010年11月。エーザイがWHO(世界保健機関)との間で、リンパ系フィラリア症(LF)という感染症の治療薬の無償提供について合意したことだ。
LFは熱帯地域に蔓延する感染症で、感染するとリンパ系に影響して足などが大きく膨れ、生活に大きな支障を及ぼす。蚊を媒介して感染するため、予防には地域全体で薬の集団投与を年1回、5年にわたって続けることが必要となる。
貧困地域での感染が多く、製薬会社にとっては利益の回収が見込みづらい。そのため、治療薬が積極的に開発されない「顧みられない熱帯病」の1つとされる。
エーザイの内藤晴夫CEOがWHO事務局長と対話した際に、直々にLF治療薬の製造について相談を受けたことがきっかけだったという。内藤CEOはこれを、同社の長期的なブランディングになるとみて引き受けた。
しかし当時はまだ日本にESG(環境・社会・企業統治)投資などの考え方が普及していない。「合意は素晴らしいが、出荷のピーク時には財務上年間5億円の赤字になることもある事業の正当性について、株主らに理解を求めていく立場にあった」(柳氏)。そこから柳氏の長い格闘が始まった。
ESGの見える化でPBRを高められる?
3月31日、東京証券取引所はPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対し、株価の改善策の開示を要請した。対象はプライム市場、スタンダード市場に属する約3300社のおよそ半数に上る。
PBRとは、株式時価総額が純資産の何倍かを示す指標のこと。PBRが1倍割れの企業は、市場の評価が帳簿上の企業価値を下回り、会社の成長性が投資家から評価されていない状態と言える。
PBRを改善する手法として一般的に挙げられるのが、事業の収益力向上や自己資本の圧縮だ。一方で今、別の新たな手法が注目されつつある。
「ESGの取り組みの潜在価値を可視化して投資家と対話すれば、日本企業のPBRはもっと高められるはずだ」。そう主張するのは、元エーザイの柳氏だ。
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