東芝買収価格は割安か。「賛同」でも消えない懸念 7月下旬にもTOBへ。直前には定時株主総会も

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アドバイザーについている証券会社がDCF法という方式で算出した株式の価値と比較しても、4620円はかなり低い水準のように見える。野村証券は東芝の株式価値を4171円〜7000円、UBS証券は4661円〜7333円としている。野村の算定はギリギリでクリアしているものの、UBSの算定は下回っている。これでは、投資家の利益になるとは言い難いのは間違いない。

ただし、東芝の元に届いた正式な買収提案はJIP案の1つしかない。仮に金額が安かったとしても、投資家は東芝株を売却して投資回収をする機会を得ることができる。メリット、デメリットの双方を考えた結果、「推奨まではしない」という判断になったわけだ。

東芝によるTOBに対する意見
東芝はJIPらによる買収提案に「賛同」はしたが、「推奨」は見送った(編集部撮影)

この状況は、今後の経済環境次第で変化し得る。例えば、金利が上昇することで株式価値算定の前提が変わり、4620円が適正な価値の範囲に入ってくるかもしれない。

新たな選択肢が出てくる可能性もある。東芝は意見表明の中で、上場維持を前提とした「Plan B」を作成したことも明らかにしている。執行サイドはこれに消極的で、特別委員会も「合理的に期待することができる当社の企業価値を向上させるPlan Bをまだ示すことができていない」と判断しているが、検討の余地は残されている。

ここまで10陣営以上が興味を示しつつ提案を見送ってきたことを考えると現実味は薄いが、新たにJIP案に対抗する提案が出てくる可能性もゼロとは言えない。となれば、よりTOB開始に近いタイミングで推奨を検討する方が合理的ということになる。その結果、判断を先延ばしするに至ったわけだ。

現在の株価ではプレミアムあるが

もう1つ、忘れてはならないのは、東芝の株を保有するモノ言う株主たちの動向だ。東芝の株主は5割以上を海外投資家が占めており、モノ言う株主たちが多く含まれている。

23日の東芝の株価は4213円となっており、買収のプレミアムは約10%ということになる。モノ言う株主たちがこの金額をどう考えるかによって、TOBの成否が分かれることになるだろう。

TOBが開始される前の6月末には東芝の定時株主総会が開かれる。ここで、JIP案の受け入れを検討した取締役の交代や配当の要求など、株主提案が行われるリスクも捨てきれない。仮に提案が出て、可決されることになれば、さらなる混乱は避けられないだろう。

ある金融関係者は「株価を見れば、投資家がTOBの不成立や何かの波乱が起きるリスクを警戒しているのは明らかだ」と語る。24日の東芝の株価は、買収価格である4620円に近づいていくものと予想された。一時は前日比6.4%高の4483円をつけたものの、その後は下落し、終値は4390円となっている。

一見、順調に進んでいるかのように見える東芝の非公開化だが、まだまだ波乱含みの状況が続くと言えそうだ。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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