尹錫悦政権を日韓改善に走らせた韓国の内憂外患 ウクライナ侵攻と米中対立で半島情勢は一変

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韓国の外交にはしばしば「4強外交」という言葉が使われる。「4強」とはアメリカ、中国、ロシア、そして日本の4カ国を指す。中規模の半島国家である韓国は日米中ロという「4つの大国」に囲まれている。そのうえ同じ民族が分断されてできた北朝鮮との緊張関係も抱えている。

4強のうちいずれかの国と緊密な関係を持てば、他の国が圧力をかけてきかねないことから、各国との外交にバランスをとる韓国外交を「綱渡り外交」と呼ぶこともある。最近は中国の台頭を受けて、安全保障はアメリカとの関係を、貿易は中国との関係を重視する「安米経中」という表現も使われている。

とはいえ、国家像のかなり異なる「保守」と「進歩」が政権交代を繰り返しているため、現実の外交は、北朝鮮に対する対応、米韓同盟の評価、中国との距離感など基本的な政策が政権によってかなり変化する。自民党だけでなく野党の多くが「日米同盟関係が外交の基軸」という方針で一致している日本から見ると、韓国の外交がわかりにくいのもやむをえないのである。

対北重視の文政権が残した負の遺産

そして、歴代政権の中でも文政権はかなり突出した外交を展開した。

とにかく北朝鮮との対話を最優先し、対話ができれば核・ミサイル問題も解決できるとして、北朝鮮に影響力がある中国に接近していった。一方でアメリカのトランプ大統領には米朝首脳会談を求め続けたが、米韓同盟に対しては消極的姿勢で一貫していた。

残念なことに、日韓関係にはほとんど関心がなかった。朴槿恵(パク・クネ)大統領時代の日韓慰安婦合意を一方的に反故にした。さらに徴用工問題で日本企業の賠償を認めた大法院判決で日韓関係が悪化しても、「被害者中心主義」を理由に事態打開に動くことはなかった。

文政権の外交が目に見える成果を上げたとは言い難い。米朝協議は何の果実もなく終わり、北朝鮮の核・ミサイル問題はむしろ深刻さを増した。そればかりか米韓両国政府間の不信感も強まった。さらに日韓関係は放置されたままで危機的状態となった。

尹政権はこうした負の遺産を引き継ぐこととなったのだが、尹政権が背負った課題はそれだけではなかった。

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