「カネで解雇を買う日」は本当に来るのか

労働者は泣き寝入りするしかない?

「解決金制度」が導入されれば、会社が実質的に意にそぐわない労働者を、カネを払って解雇に追い込むことも可能になり得る(写真:xiangtao/Imasia)

「いきなり懲戒解雇なんて納得できませんよ。裁判で解雇無効を争いたいと考えています」

202X年3月。東京都内のA社に勤める40代男性の吉田光彦さん(仮名)は、人事部長に切り出した。

A社は1990年代後半に新卒で入社した吉田さんを、202X年7月に子会社へ出向するように命じたが、それに応じなかったために業務命令違反として懲戒解雇を言い渡した。社長派の上司とウマが合わない面もあったようだ。

「おカネさえ払えば解雇」が現実に?

反発したのは吉田さんだ。「業務成績は平均以上にもかかわらず、待遇の悪い子会社へ出向させるのは不当」との主張により、吉田さんは解雇無効を求める裁判を起こす旨を人事部長に伝えた。すると人事部長からは、こんな答えが返ってきた。

「わかりました。ただ、裁判には時間もカネもかかりますよ。もし労働者側の吉田さんが申し立てるなら、この解雇を金銭で解決する手段もあります。あくまで一般論ですが、同様のケースでは会社は規定の退職金以外に、1年分の月収に相当する金額を払った先例があります」。

――以上の話はあくまでフィクションだが、現実になる可能性が出てきている。政府の規制改革会議が3月にそんな制度を提言したのだ。裁判で「解雇無効」とされた労働者に対し、企業が一定の金額を支払うことで解雇できるようにする「解決金制度」(金銭解雇)がそれである。厚生労働省は今後、新制度を検討する有識者会議を設ける見通しだ。

この制度は10年以上前から何度か俎上に載せられてきたが、今回は少し中身を変えた。これまでの案では金銭解決は使用者(会社)、労働者の双方に権利が適用される前提だったが、今回は使用者側の申し立ては認めず、あくまで解雇無効を勝ち取った労働者側にのみ金銭解決を求める権利があるとした。

過去を振り返れば、この制度は労働団体や弁護士、学識経験者などから、「カネさえ払えば会社側の意にそぐわない労働者を合法的にクビにできるのは問題だ」という強い反発を受け、導入は実現してこなかった。今回はこれらの批判をかわすように内容を変え、制度導入を進めたいのが政府の考えのようだ。

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