年度末を迎える今週、菅政権は生死の瀬戸際のはずだった。2011年度予算は成立確実だが、予算関連法案の成立は霧の中だったからだ。
だが、大震災で情勢は一変した。国会は事実上の大連立体制となった。ただし、野党側は無条件で全面協力するわけではない。特例公債法案は大型補正予算の編成が不可避という事情もあって、野党側も容認すると見られるが、つなぎ法案で先送りする子ども手当法案や税制改正法案は先行き不透明だ。
とはいえ、菅首相が辞任か衆議院解散かという窮地に立たされる状況ではなくなった。もちろん首相は政局や政権の行方は考えずに全力で国民生活の防衛に専念すべきである。大震災と原発大事故の同時発生で、行政手腕が高い仙谷代表代行を急遽、官房副長官に起用し、首相自身と枝野官房長官が原発問題、仙谷氏が被災地対策と今後の復興政策を受け持つ分担体制を敷いた。
結果、「仙谷・枝野コンビ」がほぼ全権を握り、菅首相は棚上げされた感もある。仙谷氏が官房長官だった昨年、実質的最高権力を仙谷氏に握られた菅首相は今年1月、「これからは権力を掌握して頑張る」と宣言し、1月の内閣改造で仙谷氏を官房長官から外したが、緊急事態で結局、仙谷氏に頼らざるを得なくなった。政権の主導権をめぐる菅首相と仙谷氏の綱引きは、仙谷氏に軍配が上がった格好となった。
未曾有の危機だが、そんなときこそ菅首相はトップとしての真価が問われる。いま必要なのは「鳥の目と虫の眼」だろう。
危機の実態を正確に把握し、迅速・的確に対応するには、事実の細部を見逃さない「虫の眼」を備えていなければならない。一方、日本の復興と再生、今後のエネルギー政策と国民生活、産業のあり方、国際的責任といった問題を見据えて国の将来像を描くには、社会、経済など全体を俯瞰する「鳥の目」が不可欠だ。
だが、なぜかいまトップとしての決断や判断も打ち出さず、明確なメッセージも発しない。「裸の王様」のままだと、「政治休戦」の凍結解除と同時に退陣論が再燃するだろう。
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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