「認知症」と「健忘症」のもの忘れ、決定的な違い 認知症予備軍「MCI」の可能性はありませんか

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このように認知症が進んでしまうと、自分のもの忘れを自覚することもできなくなります。「もの忘れをしたことを忘れてしまう」ということが起きるのです。

ただし、MCIの段階であれば、自分のもの忘れを自覚することができます。「何か最近おかしい。ひょっとして認知症になりかかっているのではないか」。こうした不安に駆られて、1人で外来に来られる人もいますが、本当に認知症になってしまうと、その感覚すら失われてしまうのです。

名前をすぐに思い出せないのは、なぜ?

「以前に、どこかで会ったことがある人なんだけど、名前がどうしても出てこない」のは、認知症によるもの忘れではなく、健忘症によるもの忘れです。

以前に会ったことがある人だとわかるのは、脳の中の「顔を記憶している場所」に記憶があるから。それにもかかわらず名前が思い出せないのは、「名前を記憶している場所」が脳の別の場所にあるからです。もし、脳の同じ場所に顔と名前が記憶されていれば、両方を同時に思い出せるのですが、そうではないため、顔は覚えているけれども、名前が出てこないということが起きます。

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高齢者になればなるほど、名前をすぐに思い出せないのは、これまでに会った人の数が膨大になるためです。脳の中の名前を記憶している場所には、膨大な数の名前が記憶されています。このデータベースがきちんと整理されていれば、すっと思い出すことができるのですが、普通はそれほど整理されていないため、すぐに名前を思い出せないということが起きます。

脳のデータベースは、整理されていないだけで、記憶自体はしっかり残っています。ですから、何かのヒントで思い出せることもありますし、しばらく時間が経ってから、突然思い出すこともあります。こうしたことからも、記憶自体は脳のデータベースに残っていることがわかります。

これに対して、認知症の人は、やや乱暴な表現であることを承知のうえで言うなら、「脳のデータベースが壊れてしまっている」と言うことができるかもしれません。もちろん、認知症にも段階や種類がありますから、壊れ方の程度や脳の中のどのデータベースが壊れているかなど、壊れ方は人それぞれです。ただ、データベースが壊れてしまっていると、ヒントがあっても、時間が経っても思い出すことはできません。

MCIとはどういう状態かと言えば、脳の中のデータベースの一部が壊れかけている状態です。壊れかけているデータベースの記憶だけが思い出せず、それ以外のことであれば思い出すことができます。しかし、この思い出しにくい、思い出せない記憶が徐々に増えていくと、軽度認知症ということになります。

浦上 克哉 日本認知症予防学会理事長・鳥取大学医学部 認知症予防学講座教授

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うらがみ かつや / Katsuya Uragami

日本認知症予防学会代表理事。鳥取大学医学部教授。1983年に鳥取大学医学部医学科を卒業。同大大学院の博士課程を修了し、1989年より同大の脳神経内科にて勤務。2001年4月に同大保健学科生体制御学講座環境保健学分野の教授に就任。2022年4月より鳥取大学医学部認知症予防学講座教授に就任。2011年に日本認知症予防学会を設立し、初代理事長に就任し現在に至る。日本老年精神医学会理事、日本老年学会理事、日本認知症予防学会専門医。『科学的に正しい認知症予防講義』(翔泳社)など著書多数。

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