次期日銀総裁として国会に人事案が提示された植田和男氏。30年前に金融政策をめぐり『週刊東洋経済』で繰り広げられた論争を”裁定”していた。
『週刊東洋経済』1992年12月12日号
東京大学経済学部助教授 植田和男
「岩田・翁論争」を裁定する
マネーサプライ動向の「正しい」見方
岩田氏によれば(本誌1992年9月12日号)、マネーサプライの伸びが低迷しているのは(1992年10月のM2+CD平残ベースで対前年比マイナス0.6 %)、日銀がベースマネー(1992年10月未残で前年比0.5%)の伸びを抑えているからである。また、金融政策のポイントを公定歩合操作からべースマネーの操作に変更し、現状では景気浮揚のためベースマネーを積極的に増やすべきであるという。
翁氏によれば(1992年10月10日号)、マネーサプライの低迷は資産価格下落の影響が大きい。ベースマネーの最近の低下は1991年の準備率引き下げが主因である。また、岩田氏の主張するようなベースマネー・コントロールは現実性が低く、短期金利を出発点とする現行の運営方式が有効である。
私の考えでは、現状のマネーサプライ、ベースマネー動向の解釈としては、翁氏のそれが正しく、岩田氏のそれは間違っている。ベースマネー・コントロールの可能性については、不可能ではないにしても、現行の制度を前提とした場合は、難しかったり望ましくない。
ただし、貨幣の供給量に中央銀行がもっと注意を払ったり、責任を持つべきであるという岩田氏の主張には、以下に述べるような意味で日本銀行も耳を傾けるべきである。
ベースマネー制御の可能性
中央銀行はベースマネーをコントロールできないのだろうか。
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