植田新総裁、30年前に示した岩田・翁論争への見解 30年前の原点、「週刊東洋経済」で金融政策を議論

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次期日銀総裁として国会に人事案が提示された植田和男氏。30年前に金融政策をめぐり『週刊東洋経済』で繰り広げられた論争を”裁定”していた。

植田和男氏が執筆した週刊東洋経済の記事
「週刊東洋経済」1992年12月12日号で掲載した植田和男氏による寄稿「『岩田・翁論争』を裁定する」(編集部撮影)。
「岩田・翁論争」とは何か。
バブル崩壊後の景気後退局面にあった1992年、金融政策のあり方をめぐり、『週刊東洋経済』の誌面上で交わされた議論だ。
9月12日号に岩田規久男上智大学教授(当時。2013〜2018年に日銀副総裁)が「『日銀理論』を放棄せよ」と題して寄稿した。これに対し、日銀から翁邦雄調査統計局企画調査課長(当時)が10月10日号で「『日銀理論』は間違っていない」と反論した。
論争を裁定する形で1992年12月12日号に寄稿したのが、植田和男氏(当時、東京大学経済学部助教授)だった。
植田氏のこれまでの論述が注目を集める折、ここに寄稿全文を公開する。
当時と今とではマネーサプライ(今はマネーストック、世の中に出回るお金)、ベースマネー(今はマネタリーベース、日銀が供給するお金)と用語が異なるばかりでなく、背景事情が異なる。ゼロ金利には到達しておらず、金利自由化が完了する前で公定歩合が存在するなどの点は読み解くうえで留意が要るだろう。
(オンライン配信に当たり改行、表記等のみ修正を行った)。

『週刊東洋経済』1992年12月12日号

東京大学経済学部助教授 植田和男

「岩田・翁論争」を裁定する

マネーサプライ動向の「正しい」見方

岩田、翁両氏による「マネーサプライ論戦」の論点は、量の動きを重視する学界と、金利の動きを重視する中央銀行家との間で何度も議論されたものに近い。学界の一員として見解を述べたい。

岩田氏によれば(本誌1992年9月12日号)、マネーサプライの伸びが低迷しているのは(1992年10月のM2+CD平残ベースで対前年比マイナス0.6 %)、日銀がベースマネー(1992年10月未残で前年比0.5%)の伸びを抑えているからである。また、金融政策のポイントを公定歩合操作からべースマネーの操作に変更し、現状では景気浮揚のためベースマネーを積極的に増やすべきであるという。

翁氏によれば(1992年10月10日号)、マネーサプライの低迷は資産価格下落の影響が大きい。ベースマネーの最近の低下は1991年の準備率引き下げが主因である。また、岩田氏の主張するようなベースマネー・コントロールは現実性が低く、短期金利を出発点とする現行の運営方式が有効である。

私の考えでは、現状のマネーサプライ、ベースマネー動向の解釈としては、翁氏のそれが正しく、岩田氏のそれは間違っている。ベースマネー・コントロールの可能性については、不可能ではないにしても、現行の制度を前提とした場合は、難しかったり望ましくない。

ただし、貨幣の供給量に中央銀行がもっと注意を払ったり、責任を持つべきであるという岩田氏の主張には、以下に述べるような意味で日本銀行も耳を傾けるべきである。

ベースマネー制御の可能性

中央銀行はベースマネーをコントロールできないのだろうか。

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