黒田東彦総裁による「家計は物価高を許容」発言が、日本銀行への批判を高めている。10年近く続くリフレ政策は幕引きを迫られる可能性が高い。
日本銀行の黒田東彦総裁が「失言」で世間からバッシングされる事態に陥った。
過去、日銀が週刊誌やワイドショーで激しい批判対象となったのは1998年の旧営業局接待汚職事件のほか、2006年に発覚した福井俊彦元総裁による村上ファンド出資問題があった。まさに「二度あることは三度ある」という運の悪さと言えよう。
しかも、今回は金融政策に関する講演の原稿を単に読み上げたことが不祥事級の批判を招いた。日銀がこれまで進めてきた金融政策=リフレ政策が「庶民の敵」となった背景に何があったのか。
炎上を招いた「物価高許容」発言
黒田総裁の失言が飛び出したのは6月6日の講演だった。最近の物価上昇が家計に与える影響について、黒田総裁は「家計は物価高を許容している」と述べた。
この発言が報じられると、家計の痛みを軽視する「無神経な発言」などとネットで炎上。国会に呼ばれた黒田総裁は「誤解を招いた表現で申し訳ない」と陳謝し、発言を撤回した。
だが、過去の不祥事でもそうだったが、燃え上がった日銀批判は容易に沈静化せず、世間には高額に見える総裁の給与などがやり玉に挙がった。黒田総裁の私生活に踏み込んで総裁を叩く論調も見受けられた。
大炎上の発端は、言葉の選択を間違えたことだ。「許容」や「受け入れ」といった言葉は経済用語として使われるものの、対外的な情報発信では消費者感情の軽視とみなされ、別な表現に言い換えるべきだった。
日銀の声明文や総裁講演などは、精鋭の幹部らが書き上げた完璧な文章であり、本来なら批判される点はない。完全無欠の文章は「日銀文学」とも称されるが、その最高峰の総裁講演で「信じがたいうっかりミス」(複数の日銀OB)が起き、瞬く間に日銀は「庶民の敵」になった。
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