自分そっくり?有料「AIアバター」大流行の真相 「美化された私」をSNSにアップする人が続出

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AIアバターの流行で、以前の流行を思い出した人もいるだろう。2020年頃、Facebookでは男性がこぞって若い女性に変貌した写真を投稿していた。これは、ロシアで開発された「FaceApp」という加工アプリで、女性が男性になったり、シニアになったりすることもできる。しかし、もっとも楽しまれていた使われ方は男性の女性化で、自分の姉や母に似ているという人もいれば、「結構タイプだ」とつぶやく人もいた。

現在では、女性への加工がさらに進化し、FaceAppで加工した後に他の自撮りアプリでメイクや美顔加工を施してかわいい女性を作り上げる人が増えている。これは「カコジョ(加工女子)」と呼ばれ、主に中年男性が楽しんでおり、Twitterでの交流も盛んだ。「#カコジョ」で検索すると、男性とは思えないかわいらしい女性たちが微笑んでいる投稿が数多く見られる。

また、自分の顔を動画の顔と差し替え、ダンスを踊ったり、映画のワンシーンに入ったりできる「Reface」も2020年に一大ブームとなった。

Refaceはアメリカの企業が開発したアプリで、顔写真を1枚送るだけでハリー・ポッターやアイアンマンの顔部分に自分が入り、映画の主人公のように動き出す。自分では決してできない激しいアクションや洗練されたダンスに、「自分だけど自分ではない」おかしさに笑ってしまう。Refaceでは、プリンセスのように加工された動画を投稿する女性が多く見られた。

10代にはTikTokの「AIマンガ」が人気

自撮りといえば若者のイメージだが、周囲の若者に聞いてみても、SNSを検索しても、「AIアバター」を試しているのはほぼ大人のようだ。

理由のひとつは、「AIアバター」が有料であることだ。プリントシール機に比べれば少し上乗せした程度だが、プリントシール機は友人とわいわい撮影すること自体が楽しいため、比較にはなりにくい。

また、Z世代を中心に「無加工」ブームが訪れていることも大きい。「自撮りを盛ることは恥ずかしい」と考え、スマホの標準カメラやTikTokの「無加工」エフェクトで撮影する人が増えている。加工する際でも、ごく自然に肌を明るくしたり、メイクをしたりする「ナチュラル盛り」にとどまる。盛り過ぎると、「自己愛が強い」と思われてしまうからだ。

とはいえ、エフェクトをまったく使わないわけではない。人気のエフェクトは、目と口が輪郭をはみ出すほど大きくなったり、極端に小さくなったりといった、それを見た友人が思わず笑ってしまうエフェクトだ。

TikTokで人気の「AIマンガ」は使用前後も動画で撮影する(筆者撮影)

SNOWの「AIアバター」に近いエフェクトとしては、TikTokの「AIマンガ」がある。AIマンガでは、自分の顔をモチーフにしたイラストが生成される。元になる顔を最初に写して、どう変化するかの過程を動画撮影して投稿することで、盛ることが恥ずかしいと感じる若者でも利用しやすく、人気が高い。

他に「AIポートレート」というエフェクトもあるが、これも加工した自分の顔を背景に、素の自分を自撮りするものだ。「こんなに変わったよ」と、見る人も一緒に過程を楽しめる点がイマドキなのかもしれない。

FacebookやTwitterで大流行し、まだ勢いが止まらない様子のSNOW「AIアバター」を、私の友人は「宮廷画家」に例えた。宮廷画家は本人らしさを残しつつ、本人が気に入るように美化した自画像を作り上げてくれる。AIが宮廷画家を務めてくれる時代が訪れたと思うと、感慨深く思える。

鈴木 朋子 ITライター・スマホ安全アドバイザー

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すずき ともこ / Tomoko Suzuki

メーカー系SIerのSEを経て、フリーランスに。SNSなどスマートフォンを主軸にしたIT関連記事を多く手がける。10代の生み出すデジタルカルチャーを追い続けており、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。
http://tomoko.chu.jp/

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