その話を聞いていて、これって特別支援の中だけの話ではなく、本来はすべての子どもたちにとって必要な視点なのではないかと感じました。実際、性格や気質、精神心理疾患は遺伝による影響があるという研究がありますが、たとえ遺伝的な傾向がある子どもも適切な関わり方や環境があれば、将来像は大きく変わるというデータもあります。
別の小学校の特別支援学級の先生は、このデータを裏付けるようなエピソードを話してくれました。
自分の思うようにいかないと大声を出して泣き叫ぶ不登校気味の小学1年生がいました。その子が教室でそういう状態になった時、付き添いの母親が「周りに迷惑をかけて申し訳ない」と言うので、「この接し方はよくないということがわかったからよかったですね」と声をかけたところ、母親がホッとし、それ以来すべてを前向きに捉えられるようになっていったのです。すると子どもも徐々に変わっていき、3年生に上がる頃にはすっかり落ち着いて、通常学級に自分一人でいられるようになったのだそうです。
「どうしたらその子がそこにいられるようになるのか」を考えて
私の周りにも、こんな状態のお子さんはたくさんいます。そのときに、この子は変わっているから特別支援学級に行ったほうがいいと言われるのか、どうしたらその子がそこにいられるようになるのかを考えて関わるのかで、結果はまったく変わるでしょう。
インクルーシブ教育が目指すゴールは、誰もが互いに人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を認め合える全員参加型の「共生社会の実現」のはずです。そのために、現場で何ができるのかを考えていくことが、大切ではないかと私は思いました。
最後に藤井先生のこんな言葉を紹介しましょう。「特別支援を受ける子が特別なのではなく、全員が特別で、それぞれに合った支援が必要なのだというマインドを教員が持てたら。学校の中にリソースはあります。私も最初はまったくわからなかったです。でも、子どもと接しながら一生懸命学びました。特別支援の子と通常学級の子は違うという無意識の思い込みを取り払い、私たち自身の心をインクルーシブにしていくことが大事なのではないでしょうか。私は不登校特例校とか、特別支援という言葉がなくなる日が来ることを願っています」。
その子が自分に向き合い、できていることもできていないことも含めて自分を好きになり、自分の「トリセツ」をつくっていくサポートをすることが自分の役割だと思っているという藤井先生の言葉を聞いて、「誰もが尊重し合える社会というゴールをみんなが共有できて、そこに向かうためにはどうしたらいいのかというところにフォーカスができたら、本当の意味でのインクルーシブ教育が実現し、そこで育った子どもたちは、誰にとっても生きやすい社会をつくる人になるのではないだろうか」と今回の取材を通して強く感じました。
(注記のない写真:msv / PIXTA)
執筆:教育ジャーナリスト 中曽根陽子
東洋経済education × ICT編集部
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