中国「鉄道高速化」知られざる“試行錯誤"の歴史 香港接続路線にスウェーデンの車両や「国産車」

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「藍箭」は2001年1月のデビューから2002年末までの2年間で、全8編成の延べ走行距離は400万km弱に達したが、運行中に発生した機器故障は113件で、これは10万km当たり平均2.88件だった。一方、X2000は1998年のデビューから2003年3月までの延べ走行距離は200万km強、この間に列車の機器故障は7件のみで、発生率は10万km当たりわずか0.35件と「藍箭」とは10倍近くの開きがあった。

「藍箭」のトラブル件数があまりに多かったことから、徹底した原因追及や再発防止等に努めた結果、2003年以降の故障率は大きく減少。同年1〜3月の故障件数は10万km当たり0.15件にとどまったという。

とはいえ、不安を抱えての高速運行でさらなる大トラブルが起きるのを避けたかった鉄道部は2007年2月、広深線に「CRH1A型」電車6編成を割り当て、「藍箭」全車を一気に更新、実証実験を兼ねた運行を始めた。

CRH1Aは中国の高速列車ネットワークで広範に使われている、各国の技術をベースにライセンス生産した「CRH和諧号」各種のうち初期に導入された車両で、X2000の地元スウェーデンで走っているボンバルディア製「Regina(レジーナ)」の発展型だ。X2000、藍箭と続いてきた広深線の高速化の歴史を振り返ると、外国の技術を借りながらも10年をかけて安定した車両をようやく手にした道のりだったといえる。

高速化の礎を築いた路線は今

2007年以降、中国は全土で高速鉄道の建設を推進。広州をハブとした高速鉄道網は、旧広深線ではなく、ルートも駅も在来線とは全く異なる形で造られた。しかし、市内中心から外れていることもあり、依然として「昔のルート」の利用者もそれなりにいる。

X2000「新時速」はスウェーデンに戻り、現役の高速車両として使われているという。一方で広九直通車はコロナ禍の影響で運休したままだ。kttの2階建て車両は交換部品の欠乏からこのまま引退することになりそうなうえ、そもそも香港側の広九直通車の運行担当部門が解散されており、香港―広州間の鉄道リンクは、このまま2019年4月に全通した高速鉄道に置き換わる公算が高い。

過去25年余り、中国鉄道高速化の実験台として使われてきた広深線。今後は停車駅の多い急行タイプの列車が走るローカル線へとランクダウンする可能性も高い。とはいえ、中国の経済発展とともに多くの人々が行き交った線路の歴史は引き続き語り継がれることだろう。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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