中国「鉄道高速化」知られざる“試行錯誤"の歴史 香港接続路線にスウェーデンの車両や「国産車」

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一方、中国がX2000を導入したのと同じタイミングで、香港側の広九直通車の運行パートナーであるKCR(現・MTR)は日本の近畿車両製2階建て客車を導入。ADトランツ製電気機関車牽引の「ktt」と呼ばれる列車を1日2往復運行した。kttには座席配置1+2列の1等車が付いており、航空会社からキャビンアテンダントをスカウトしてサービスに当たった。

Ktt2階建て客車
「新時速」登場と同時に、香港側のKCRは日本の近畿車両が製造した2階建て客車による「ktt」を運行開始した(筆者撮影)

実はX2000に関して、スウェーデン側は中国に整備技術の詳細を提供しなかったため、やむなくKCRの何東楼整備工場にいたktt用機関車のオーバーホールを担当するADトランツの技術者が約4日に1回の頻度で整備を行った。その後、広深鉄路はX2000の所有権を取得。電子関連のメンテナンス技術も習得した。

広深線は2000年には単線+複線の3線化を実現。これにより貨物列車やスピードの遅い客車列車を単線側に回し、本線を走行しながらの追い抜きも可能にし、線路容量の拡大を目指した。ただ、線路に余裕ができても高速車両が「X2000」1編成ではいかにも足りない。

そこで登場したのが「藍箭」(青い矢の意味)という“中国国産”の高速車両だ。

「国内組み立て」でも主要部品は外国製

「藍箭」が登場したのは2000年、動力集中型で最高運転時速は200km。「DJJ1型電気機関車」と名付けられた動力車1両と軟座(中国で1等車を指す)6両からなる1M6Tの7両固定編成だが、一部の編成には6人掛けの個室が設けられていた。

藍箭 DJJ1
中国製の高速列車「藍箭」(筆者撮影)

筆者は導入後まもなく乗車したが、当時ドイツで走っていたインターシティ・エクスプレス(ICE)の初期型をひと回り小さくしたような印象だった。それもそのはず、中国で組み立てられたとはいえ、主要部品は国外産だった。ただ「藍箭」にも「新時速」の文字が書かれていたことから、外国製のX2000は早々に退役させて、国産車で高速列車網を確立させようとしていたように感じる。

「藍箭」は、広深線での営業運転前に実施した試験運転が終わる直前、2000年12月に最高時速235.6kmを達成。2001年1月に始まった営業運転でも最高時速200kmで走行した。中国で、終着駅で機関車の付け替えの必要がない電車固定編成が本格運用に入ったのは大きな変化だったと言えよう。

ところが、高速列車国産化の道を断念したきっかけが「藍箭」の営業運転だったのは皮肉なことだ。広深鉄路では計8編成を走らせていたが、あまりのトラブルの多さに辟易していたようだ。製造から試験までの日数が短かったことに加え、運行システム操作の経験不足も重なり、営業運転開始から程なくしてさまざまな問題が露呈した。

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