中国「鉄道高速化」知られざる“試行錯誤"の歴史 香港接続路線にスウェーデンの車両や「国産車」

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完成した新しい線路は時速200km運行が可能だったが、当時の中国はそのような高速車両を持ち合わせていなかった。中国政府の幹部たちは自国に高度な高速鉄道技術がないことを認識しており、外国の技術を導入したいと考えた。

電化完成前々年の1996年、中国鉄道部(部は日本の省に当たる中央官庁)と広深線の運行事業体である広州深圳鉄路有限公司(広深鉄路)はADトランツ(後のボンバルディア・トランスポーテーションの一部)と協力協定を締結。年間180万米ドルでスウェーデン国鉄が運行している同社製の振り子式高速車両「X2000」1編成のリース契約を締結した。

X2000の編成は1998年初めに天津の港に上陸。スウェーデンでの運行時より1両追加された状態で中国へとやってきた。編成の片側先頭車が機関車となった動力集中型で、車両は全て座席配置が2+2列の2等車。スウェーデンで運行している1+2配列の1等車付き編成と比べれば若干見劣りするものの、中国では「新時速」と名付けられたほど、当時の車両水準からみれば驚きの高規格車両だった。中国鉄道科学院の手により、北京郊外にある「環行鉄道」と呼ばれる試験用のループ線(中国鉄道博物館に隣接)での試験走行を終えた後、X2000は正式に運用に組み込まれた。

新時速X2000
「新時速」X2000の先頭車両横に並ぶ乗務員たち(筆者撮影)

アジアで新幹線に次ぐ高速運転

1998年8月28日、X2000はついに営業運転を開始。広州東駅と香港の九龍駅(現・ホンハム駅)間を結ぶ“広九直通車”と、広深線の都市間列車としてそれぞれ1日2往復運行した。こうして、ついに時速200kmでの運転が実現した。

広州市内の深圳寄りに新たなターミナルの広州東駅が完成し、運行距離が以前より若干短くなっていたとはいえ、広州―深圳間を無停車55分で結んだことは当時の中国では画期的だった。全アジアを見渡しても、日本の新幹線に次いで速い列車の運行が始まったのである。

「新時速」車内サービス
「新時速」X2000の車内サービスの様子(筆者撮影)

当時を思い返すと、運行開始の情報は営業運転直前になってようやく発表されたように記憶している。筆者は広州にあった旅行代理店を通じて広深鉄路に掛け合ってもらい、運行開始翌日の深圳発午前のチケットを入手して時速200kmの旅を味わうことができた。振り子式車両だが客車なので騒音レベルは低く、欧州風の硬めの椅子と相まって「これぞ新時速」と思わず唸ってしまう素晴らしい乗り心地だった。おりしも同列車には広深鉄路の撮影クルーが同行しており、いわば“監督付き”で撮影したのが今回紹介している写真だ。

ただ、この区間だけ高速化を達成しても、当時の中国鉄道全体の運営の仕組みから見ればなんともバランスの悪いものだった。とにかく利用客が多いため、チケットを買うのに長時間並んだり、駅には早めに行って乗車の準備が必要だったりと、新幹線でも直前の乗車が当たり前の日本人にはなかなかの苦行だったように記憶している。

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