選挙の結果でひっくり返る「台湾の交通政策」 与党が大敗「統一地方選」ではどんな影響が?

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この背景には、台北都心部の地価の上昇によるドーナツ化現象がある。ネット上では有名アニメのキャラクターにちなみ、台北市を「天龍国」、近郊に移り住む人々を「脱北者」と呼ぶほどである。実際に、桃園市は2021年度の人口増加が3584人と、全国6つの直轄市の中で1位を記録。住民の平均年齢も約40.51歳と、若い世代を中心に近郊への流出が激しい。

そこで問題となるのが都心(台北市)への交通手段である。とくに問題なのは、各市の制度の違いによる運賃の顕著な差だ。

例えば、新北市と桃園市の境に位置する林口地区は近年急速に開発が進み、2018年には桃園MRTが開業し、台北駅までの輸送を担っている。しかし、同MRTは新北市内をカバーするにもかかわらず、桃園市が運営主体であるため、現在の「1280月票」の範囲には入っていない。一方で、桃園市側には「1280月票」が適用される路線バスの経由する便が少ない、または乗り切れないといった問題が発生している。桃園MRTは運賃が最大で半額となる定期券を提供しているとはいえ、利用者は制度が2つ混在していることに不公平さを感じずにはいられないだろう。

各地で進む都市鉄道の拡充

また、路線の拡充も課題である。郊外での輸送は、客運(高速バス)や快速路線バスの幅広い輸送網や台湾鉄道が担ってきたが、輸送力や定時性に限界があることからMRTネットワークの拡大が急がれている。

新北市では、今回の選挙で再選を果たした国民党の侯友宜市長が2030年までに121駅、全長139kmに及ぶ路線を整備する「三環六線(3つの環状ネットワークと6つのLRT)」計画を掲げて都市鉄道建設を推進。計画が完了すると人口10万人当たり3駅が整備され、東京やソウル、シンガポールの基準に並ぶとしている。

台湾北部で進む都市鉄道計画
台湾北部の都市鉄道計画ルート
台湾北部で進む都市鉄道計画のルート図(筆者作図を基に編集部作成)

中国語で「捷運」と呼ばれる台湾の都市鉄道(MRT)は、広義では片方向の輸送量が1時間当たり2万~6万人を目安とする高規格路線、1万~2万5000人の中規格路線、それより少ないライトレール(LRT)に区別され、台北都市部のMRTは多くが高規格に属する。新北の近郊路線や桃園、台中などの都市では高規格路線に接続する形で中規格路線やLRTの整備を進めている。

次ページ新北市長選では「LRT整備」が争点に
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