人気職種コンサルタントが顧客社員に嫌われる訳 「経営者には好かれる」という捻れが生む溝

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しかし、繰り返しますが、経営者がアイデアを実行するかどうかを意思決定し、社員が実行します。この肝心要の部分をやらずに外部からアドバイスするだけでは、クライアントにとって、「ネット検索より少しわかりやすかった」「少し背中を押してくれた」という程度の貢献しかありません。

研修・セミナーも同じです。筆者の経験では、知識・意欲などレベルの高い受講者は、講師が少々間違ったことを教えても、自分なりに軌道修正して学び取ります。一方、レベルの低い受講者は、講師が懇切丁寧に説明しても理解できず、「何を言ってるかわからんアホ講師」とダメ出しします。研修・セミナーの成否の8割は、受講者によって決まります。

公的支援は、さらに根本的な問題があります。多くの公的支援は、ゾンビ企業を延命させるだけで、企業の経営を抜本的に立て直すわけではありません。「公的支援は企業・社会にプラスにならない」というのが、日本以外の世界の常識です(なので、世界の大半の国では個別企業への公的支援をしていません)。

コンサルタントをしている筆者が言うのもなんですが、コンサルタントの貢献は極めて限定的です。「我々はクライアントや社会の発展に大いに貢献している」と思うのは、コンサルタントの3つ目の勘違いと言えます。

コンサルタントはプライドを捨てろ

では、コンサルタントはどうすればいいのでしょうか。クライアントから信頼を得ることはできるのでしょうか。

まず、ここまで説明したように、コンサルタントという立場では大した貢献をできないということを自覚する必要があります。そして、この制約された条件の中でも「どうしたら貢献できるのか」と必死に知恵を絞ります。経営者の背中を押したり、社員が「よし、改革に挑戦するぞ」とやる気になってもらうには、高度な知恵が要求されます。

コンサルタントの「知識」を高く評価し、「先生、先生」とすり寄って来る志の低いクライアントは、コンサルタントのビジネスとしては有り難い存在ですが、こういう関係では、コンサルタントもクライアントも成長しません。向上意欲・変革意欲があるクライアントと切磋琢磨し、真剣勝負する関係を構築するのです。

一般に、自分自身や自分の仕事にプライドを持つのは良いことだとされます。しかし、ことコンサルタントについては、「俺はクライアントよりも優秀だ」「俺はクライアントよりもスゴイ仕事をしている」という変なプライドを捨て、クライアントとともに成長しようとするほうが、結果的に良い仕事をし、企業・社会に貢献できるのです。

なお、コンサルタント以外の読者の方には、「コンサルタントは胡散臭くて当たり前」「元々役に立たないもの」と考え、過度な期待をせず、鷹揚な気持ちでお付き合いいただければ幸いです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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