18世紀から現代にかけてアイスランドで漁業に従事した女性たちを調査したエスノグラフィーである。著者は、北極圏や北欧を研究対象とする社会人類学者だ。彼女は学生時代、旅先のタスマニアの漁村で「男らしい」漁師たちに奇異な目線を向けられながら漁業に従事し、大学の学費を稼いだという。好奇心旺盛な人類学者らしいこのエピソードが、著者と今日の北欧圏で忘れ去られつつある女性漁業従事者をつないだ。
アイスランドのもうひとつの姿
著者は1999年にアイスランドに滞在した際、沿岸のストックセイリという小さな漁村を訪れた。村には荒れ果てた古い石の家があった。18〜19世紀に手漕(こ)ぎ漁船の船長だったスリーズルという女性の漁師小屋を再現した建物だ。14〜19世紀のデンマーク統治による搾取、寒冷地の飢餓、火山噴火に苦しめられてきた地の女性漁業者。
表向きの記録にはめったに登場せず、人々の記憶からも消えつつあった存在を資料から確信し、研究を開始したという。資料探索に加え、「海の女」=女性漁業従事者の記録と記憶を求めて、漁業従事経験があるアイスランド人女性150人以上にインタビューした。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
東洋経済ID 会員特典
東洋経済IDにご登録いただくと、無料会員限定記事を閲覧できるほか、記事のブックマークや著者フォロー機能、キャンペーン応募などの会員限定機能や特典をご利用いただけます。
東洋経済IDについての詳細はこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら