
アイスランド 海の女の人類学(マーガレット・ウィルソン 著、向井和美 訳/青土社/3520円/382ページ)
[著者プロフィル] Margaret Willson/米ワシントン大学人類学科・スカンディナヴィア学科兼任准教授。近年は小さなコミュニティ、ジェンダーを主軸として北極圏や北欧の調査を行っている。本書はワシントン州ノンフィクション大賞2017の最終選考作。
18世紀から現代にかけてアイスランドで漁業に従事した女性たちを調査したエスノグラフィーである。著者は、北極圏や北欧を研究対象とする社会人類学者だ。彼女は学生時代、旅先のタスマニアの漁村で「男らしい」漁師たちに奇異な目線を向けられながら漁業に従事し、大学の学費を稼いだという。好奇心旺盛な人類学者らしいこのエピソードが、著者と今日の北欧圏で忘れ去られつつある女性漁業従事者をつないだ。
アイスランドのもうひとつの姿
著者は1999年にアイスランドに滞在した際、沿岸のストックセイリという小さな漁村を訪れた。村には荒れ果てた古い石の家があった。18〜19世紀に手漕(こ)ぎ漁船の船長だったスリーズルという女性の漁師小屋を再現した建物だ。14〜19世紀のデンマーク統治による搾取、寒冷地の飢餓、火山噴火に苦しめられてきた地の女性漁業者。
表向きの記録にはめったに登場せず、人々の記憶からも消えつつあった存在を資料から確信し、研究を開始したという。資料探索に加え、「海の女」=女性漁業従事者の記録と記憶を求めて、漁業従事経験があるアイスランド人女性150人以上にインタビューした。
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