彼女たちの物語を、著者はどうしても書きたかったのだろう。ノンフィクションの形で記録するのではなく過去と未来に扉が開いた物語として。本書はベストセラーとなった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者による小説である。
ヤングケアラーの過酷な世界
英国で保育士として貧困や差別を見てきた著者が紡ぐ世界は過酷だ。舞台は英国の中学校。生活保護費をドラッグに使ってしまうシングルマザーの娘、ミアはいつもお腹(なか)を空(す)かせている14歳。8歳の弟、チャーリーの身なりは貧しく、学校で陰湿ないじめを受けている。ミアは弟を守りながら、学食で万引きをしてなんとか食いつないでいる。ミアにとって、裕福な同級生の悩みなどくだらないことで、明日のパンこそが心配ごとだが、彼女はその窮状を隠そうとする。
本書に描かれた世界は、私たちにとっても無関係ではない。誰にも頼れない、社会から見えないヤングケアラー(家族の介護や弟妹の世話、家事などを日常的に担う子ども)は日本にもいる。自分が子どもであるという牢獄にいる子どもたちだ。
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