著者の執念がにじみ出た書だ。本書で執拗なまでに展開されるのは、「物語(ストーリー)」が持つ魔力への批判と、その恐ろしい力に屈服せざるをえない私たち人類への警告である。物語にたやすくだまされる人間という種族への著者の疑念は、徹底している。
現代のあらゆる局面に介在する「物語」の負の側面
「泣ける映画が観(み)たい」と口走り、カタルシスを求めてストーリーを「消費」する。私たちのそんな性質は、ネット社会であぶり出されたものだ。デジタル経済が生み出した「監視資本主義」は、物語の消費財化を加速させるばかり。人の行動や思考をデータとして収集するのは、それを用いて、私たちに何かを買わせるためだと著者は主張する。
見たいようにしか現実を見ない人間の哀(かな)しさ、他者への想像力の減退、コミュニケーションを望んでいるようでいて実は自らの信じるストーリーを繰り返すだけの対話とも言えぬやりとり。さまざまなつぶやきが発信されては消えていく現代に、人々がうっすらと感じているやるせなさがある。それらに熱く挑んでいく書と言えるのかもしれない。
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