そこでハウスマンらは別のアプローチを提案する。「成長診断フレームワーク」という発想に基づく現実的な政策だ。一言で言えば、国ごとに成長を阻む主要因(教育制度の非効率、信用規制、インフラの未整備等々)を突き止めるというものである。
新古典派理論では、物理的な資本の蓄積に投資すること、すなわち設備投資の促進によって1人当たりGDPを押し上げることが推奨される。
ただし資本の収穫低減の法則があるから、この方法では一定限度までの成長にとどまる。
ただ新古典派モデルは、人的資本の蓄積、具体的には教育や知識開発に投資しても成長につながると示唆する。だがこの点について新古典派理論は十分に掘り下げていない。
とくに、知的財産権の保護の重要性、競争政策が財とサービスの市場に及ぼす影響、労働市場の構造改革政策、教育政策と研究開発投資をどう組み合わせるかについて何も語っていない。
シュンペーター理論に基づく成長政策
シュンペーターの創造的破壊のパラダイムを支える第1の重要な前提は、イノベーションの積み重ねこそが成長の最大の原動力だというものである。
しかし個人は、自らのイノベーションが社会にもたらす知識の進歩も、それを踏み台にして将来のイノベーターが生み出す成果も内部化できないため、イノベーションへの投資は不十分になりがちだ。ここで、投資家としての政府の役割が重要になる。
第2の前提は、イノベーション創出を動機付けるのは、超過利潤を独り占めできる見込みだというものである。よってここでは、知的財産権の保護者としての国家の役割が重要になる。
本書では、知的財産権の保護と競争政策の補完的な関係を、また税制とイノベーションの関係を論じる。
第3の前提は、新しいイノベーションは、古いイノベーションが生み出した超過利潤を破壊するというものである。つまり創造的破壊である。
となれば新しいイノベーションは、超過利潤を死守しようとする既存企業と正面衝突することになる。ラジャンとジンガレスが明快に説明したとおり、こうした既存企業は従業員からの支持も得られる。彼らは既存事業の破壊によって失業することを恐れるからだ。