財務省vs文科省、財政制度等審議会「教員の量と質」を問う教育予算の行方 日本の教員数は「他国と比べて充実」は本当か

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だが、現実問題としては、倍率低下により講師不足、教員不足となりやすく、欠員状態の学校も多い(「公立学校教員採用選考試験『小学校で過去最低の2.5倍』、低倍率のカラクリ」参照)。本来は誰でもいいわけではないが、講師をしてくれる人が見つかれば、即採用となっている。これでは講師の質の低下が起こりやすいと考えるのが自然だろうし、欠員が出て忙しさが増す学校現場では、正規の教員だって学習できる余力がなく、質は低下しやすいと考えられる。

さらに、この後が大事なのだが、こうした教員不足、欠員が容易に生じやすい原因は何なのか。

第1に、非正規の講師に都合よく頼ってきた仕組みの問題。第2に、講師をしてでも教員になりたいと思える人が減ってきた問題(学校の過酷な労働実態などが関連)。第3に、学級担任外などの遊軍的な人材配置がもともと少なく、すぐに欠員になりやすいギリギリの配置状況である制度と予算の問題などがある(ほかの背景要因もあるが、長くなるので割愛)。つまり、教育現場に多少なりとも余力のある人的配置があればよかったのだが、量的な拡大政策を取ってこなかったがために、教員(とりわけ講師)の質の低下を招いている可能性があるのだ。

もちろん、急に教員(正規)の採用数を増やすと、質の低下を伴うリスクはあるが、数年かけて徐々に学校現場に余力を取り戻していく、つまり教員定数を今の制度よりも充実させていく政策を取るべきではないか。実際には、少子化による学級減による必要な教員数の自然減もあるので、教員総数(それに伴う財政負担)がそう増えるわけではない。

財務省の思惑どおりになると教員の質はいっそう下がりかねない

仮に財務省が言うとおりの政策を進めると、おそらく、加配定数すら削減された学校現場はさらに苦しくなり、いっそうの教員不足、欠員が起きる。今でも、少人数指導を本当はしたかったが、加配されていた人を引っこ抜いて、学級担任の欠員補充に回している小学校などは実に多いからだ(私も参画している「#教員不足をなくそう緊急アクション」の調査からも示唆される)。

そして、欠員状態で多忙を極める学校では、病休や離職が増える。そんなところに講師登録してくれる人も少なくなるので、教員不足はさらに深刻になるという悪循環が待っている。

これはフィクションではない。今もすでに起きていることだ。この状況をガン無視するのが「優秀」といわれる財務官僚なのか?

今回批判的に検討した財務省の資料には「教員に過度な負担を負わせない取組を導入・展開することにより、教員を保護する環境を作っていくべき」との一節があり、大いに共感する。

スクールロイヤーのことなどが言及されていて、それも大切だと思うが、もっと根本的には、これまでの教職員の配置状況と業務の負わせ方が、決して先生たちにやさしくなかった、という事実に注目してもらいたい。教員を保護することは、子どもたちを保護すること、言い換えれば、子どもたちにちゃんとした教育・学習の場を用意することにつながる。これは、ぜひ財務省の理解・協力も得つつ、進めていきたいことだ。

(注記のない写真: IYO / PIXTA)

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
妹尾 昌俊 一般社団法人ライフ&ワーク代表理事、OCC教育テック大学院大学 教授

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せのお まさとし / Masatoshi Senoo

徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP研究所)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中。

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