松戸市の小型電動車「グリスロ」が無料で乗れる訳 地域交通のジレンマを抜け出す成功例になるか

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11月7日の松戸市の発表によると、事故が発生したのは松戸市小金原6丁目3番地の小金原公園付近の信号機のある交差点で、事故発生時刻は11月2日(水)午後2時50分ごろ。運転していたのは、小金原地区在住の75歳男性だ。

グリスロドライバーの習熟度の向上と運行コースの再確認のため、ほかのグリスロドライバー6名が同乗してタジマNAO-8Jを運転中、赤信号で前方に停車していた軽自動車に後方から追突し、車両の前部の一部が破損したという。ドライバーと同乗者に、怪我はなかった。

運転方法は一般的な乗用車と同じ(筆者撮影)

追突された軽自動車を運転していた松戸市内在住の67歳女性は、同日夜間救急病院で受診したあと、事故2日後の11月4日に病院を受診し、頸部・両肩等に「1週間程度の加療を要する」との診断を受けた。任意保険については、松戸市が加入者として対応する。

事故の原因については、グリスロドライバーの「アクセルとブレーキの踏み間違い」と発表された。市としては“当面の対応”として、下記3点を河原塚と小金原の両地域で協議し、実施を徹底するとしている。

(1)緊急時対応マニュアルを作成し、実地訓練を行う
(2)ドライバーの習熟度が上がるまで、乗客を乗せない
(3)助手席に補助者を同乗させる

技術面では、車両メーカーとアクセル/ブレーキの構造改善や、踏み間違い防止、および追突防止に関する後付け装置の採用を協議するという。また、松戸市福祉長寿部によると、すでにドライバー講習を受けた人に対しても、新たな内容での講習を受講してもらうなど、安全運転を徹底すると説明している。

強い意志の背景にある“視点の違い”に

今回のようなドライバーの運転ミスによる事故だけでなく、ほかの走行車が衝突する「もらい事故」のリスクも当然あるだろう。それでもなお、松戸モデルの社会実装を進めるのは、地域住民が“このままでは地域社会が壊れていってしまうリスク”への対応を重んじ、地域住民が地域活性化に対して“覚悟を持って挑もう”という強い意志があるからではないだろうか。

また、地域住民の思いに対して、松戸市が“しっかり、やさしく”支えていこうという姿勢を感じる。グリスロの正式運行は、河原塚地域では2022年11月14日から。また、小金原地区については、車両の修理を待って運行を始める予定だという。

とはいえ、河原塚地域のオープニングセレモニー実施時点で発表された内容によれば、同地域での走行は午前1便・午後1便と少ない。松戸市としては同地区での便数、他地区での運行などを今後、段階的に広げるとしている。

セレモニーでのテープカットの様子。全国各地でグリスロのアドバイスを行っている、東大名誉教授で日本自動車研究所代表理事 研究所所長の鎌田実氏(左から4人目)も参加した(筆者撮影)

予約方法については、LINEによる予約システムをすでに構築しているが、各種の方法も見据えて段階的に対応策を考えていくという。

一般的な地域交通では、「定時便なのかオンデマンド方式なのか」「予約システムはしっかり構築できているか」といった、交通事業者のような視点が優先されがちだ。それが、松戸モデルの場合、“無理せずできることから考える”、または“もし何か起こってしまったら、できるだけ速やかに対応し、再発防止策の実施を徹底する”といった、福祉分野における「現実解」を重んじる観点がベースにあるように感じる。

新しい「地域の移動の方法」である松戸モデルの動向を、これからも末永く見守っていきたい。

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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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