東日本大震災から11年。復興への取り組みから考える世界課題
2011年の東日本大震災の発生を受け、東北大学はその直後から被災地にある総合大学としての役割を果たすため、「災害復興新生研究機構」を設置。研究・教育・社会貢献等に戦略的かつ組織的に取り組み、その成果を発信・実践するための組織と位置づけ、全学的な震災復興への取り組みを通し、日本を牽引する新たな価値創造に取り組んできた。2012年には災害科学国際研究所(IRIDeS)を設立し、防災に関わる研究も促進。震災以降、現在に至る約10年の流れの中で、2015年の国連防災世界会議で「仙台防災枠組」が採択されるなど、世界での防災に対する意識も高まりを見せている。「防災」は国際的に通用するキーワードとなり、世界の共通課題として注目されるようになったと言える。
2015年には「社会にインパクトある研究」をまとめ、持続可能で豊かな社会の創造を目指し、他の研究機関や産学官の連携のもと、研究を推進しようという活動を開始した。その数カ月後、SDGsが採択され、COP21のパリ協定が締結。今まさに世界で取り組まれているSDGsをはじめとした共通課題が叫ばれるようになる以前から、東北大学は同様の課題に取り組み、研究を続けてきたのである。
さらに近年ではコロナ禍にも直面し、世界全体が経済復興や社会の活性化に注目するようになった。震災からの復興だけではなく、SDGsを達成した新たな未来を創造するための活動に注目が集まっていると言える。
災害復興からグリーン未来社会の実現へ
新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を受け、アフターコロナ時代の経済復興からグリーン・リカバリー、脱炭素等、2030年に向け世界が目指す目標はSDGsを基軸としてさらなる広がりを見せている。その中で東北大学が重要だと考えるのが、教育機関と企業、そして地域をつなぎ、それぞれの取り組みを包括していくシステムづくりである。
2021年4月、東日本大震災から10年目の節目を迎えた年に、東北大学は災害復興新生研究機構を改組して「グリーン未来創造機構」を設置した。グリーン未来創造機構のミッションは、「安心・安全で持続可能な社会に向けた教育・研究・社会連携活動を推進すること」「環境および社会問題を解決し、持続可能で自然災害および感染症などのあらゆる災害にレジリエントなグリーン未来社会の実現に寄与すること」にある。世界が直面する多様化した課題に対し、震災復興で培った研究力・社会実装力を生かし、学内や大学と社会の包括的な連携を図るインターフェースとして、学内の多様な取り組みを発信するショーケースとして、さらには知見やデータを駆使しシンクタンクとして機能していくことを目指している。
インターフェース機能を発揮し、多様なステークホルダーとの共創を推進するため「グリーン・ゴールズ・パートナー」という枠組みを設置。さまざまな企業や団体とつながりながら互いの活動の活性化を図る。社会課題解決への貢献だけでなく、研究シーズの活用によって新たなビジネスの創出を生むなど、人々を巻き込みながら一歩踏み込んだ活動も実施する。
復興とSDGsの推進パートナー 福島県・宮城県との連携
震災で大きな被害を受けた福島県では、11年が経過した現在でも復興は道半ば。さらに時間を経て新たに浮かび上がってきた課題も存在している。これを受け、機構は新たに「福島復興支援室」を立ち上げ、これまで以上に復興に尽力していくことを表明した。2022年3月には、東北大学と福島県との包括連携協定が締結され、復興とSDGsを推進するパートナーとして地域活性化のさらなる加速を目指す。
政府が進める「福島国際研究教育機構」の設立に向けた取り組みへの参画はもちろんのこと、参画するだけではなく、学外とつながり活動する拠点を持とうと、青葉山新キャンパスを中心としたサイエンスパーク構想を福島県浜通り地域へ横展開した「Fサイエンスパーク構想」も検討している。また、宮城県との包括連携協定も結んでおり、従来の連携体制を改めて見直し、そのつながりをより強固なものにしてきた。
被災地とともに歩んできた大学だからこそ、これまで以上に東北の復興を戦略的に支援・発信し、「社会とともにある大学」として、安心・安全で持続可能な新しい時代の創造に取り組み続ける。
連動・連携がつくる未来社会
東北大学が目指すのは、地域の新たな共創拠点をつくるとともに、SDGsの達成・グリーン社会の実現に貢献する人材を育成することで、研究者や学生の地域定着・地元企業の活性化を図り、地域全体を活性化させること。さらに福島から世界の課題にソリューションを提供すべく、国際教育研究拠点として、世界への発信・貢献を続けていく。
地域に根差し、産学官の連携により地元東北の課題・震災復興に取り組んできた東北大学。その先には、復興を超えた、持続可能な新たな未来社会の創造を見据えている。