持続可能な社会の本質を見据えて

国立大学法人東京大学未来ビジョン研究センター 菊池 康紀 准教授

SDGsやカーボンニュートラルの考え方が社会に浸透してきた2018年ごろ、注目を集めていたのはCO2の削減対策でした。その活動が全国的に広がる一方で私たちが考えていたのは、真に持続可能な社会を実現するために、国だけではなく地域による活動が重要だということです。私たちのプロジェクトは、地域が自律的にビヨンド・“ゼロカーボン”実現に向けて活動できる仕組みづくりを目指して立ち上げられました。2020年、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下JST)が公募する「共創の場形成支援プログラム(COI―NEXT)」の「育成型」として採択された後、2022年には「本格型」へ昇格。新たなフェーズを迎え、さらに活動を広げています。

連携とビジョンの明確化が地域を動かす推進力になる

地域の豊かさにつながるビヨンド・“ゼロカーボン”を目指すプロジェクトにおいて、私たちは産学公の連携を重視。地域を最もよく知る現地の人々、最先端の知を有する研究者、技術と実行力を有する技術者・企業がつながることが重要だと考えました。公共団体が企業のノウハウやサービスを導入する際に求める公共性の高いエビデンスを、連携する大学がフォローする。大学もリソースの不足や研究成果が事業化できないという障壁を、公共団体や企業のサポートによって乗り越える。この関係の構築により、不足点を補い合いながら、単一の機関では解決できない複雑に絡み合った課題を解決できるのです。

さまざまな課題のある現代においては、連携により生まれたノウハウを、なるべく迅速かつ自律的に行動に移していくことが求められています。そのために私たちは、「地域のありたい将来像の明確化」にこだわりました。産学公、地域の人々すべてが、「ありたい将来」を明確に共有することが、計画的、具体的に行動する推進力になると考えたのです。そのプロセスの一つとして、地域内でのワークショップを開催し、未来を担う中高生にも参加してもらいました。ビジョンを明確化する過程であがった情報や意見、あるいは大学による「実験と公正な評価結果」により、公共団体は意思決定しやすくなります。企業や大学の知識と地域内の若い世代を巻き込む活動が公共団体を動かし、地域の豊かさを生む。それが、私たちが共創する循環なのです。

これからの社会のために高等教育機関が果たすべき役割とは

高等教育機関には、将来を生きる人々の視点・考えを養うことが求められています。研究から新しく得た理解を社会に発信し還元していくことも、私たちの役割です。環境問題は、悲観的に捉えられがちですが、研究としてはまだまだ可能性があり、さまざまなアプローチが可能な分野です。地域の一人ひとりが楽しみながら参加でき、未来に期待を抱ける前向きなアクションとして活動を推進していきたいと思います。

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