学校が「不便で非効率なやり方を続けている」ことが明らかに

先日、公立小中学校(義務教育学校等を含む)の約9割、2万6364校が回答した貴重な調査結果が発表された。

・約6割(63.5%)の学校では現金集金が残っている。
・教職員個人のメールアドレスがない学校が約2割(21.9%)。
・夏休みや冬休み中の宿題で、クラウドサービスやデジタルドリル教材を用いている学校はごくわずか(完全にデジタル化している0.9%、一部・半分以上している13.8%)。

 

こうしたデータをみて、皆さんはどんな感想をお持ちになるだろうか。

もちろん、何でもデジタル化すればよい、ICTを使えばよいという話ではない(例えば、宿題の一部は手書きのものがあってもいいだろう)。だが、あまりにも学校が不便なまま、非効率なやり方をいまだ続けていることを示すデータの1つと捉えることもできると思う。

問題はファックスだけではない

冒頭で紹介したのは年末(2023年12月27日)に速報値が公表された、文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務 DX化チェックリスト」に基づく自己点検結果の一部だ。

「大半の学校(95.9%)はファックスを利用している」ことがよく報道されていたが、問題はファックスだけではない。少し調査結果をみておこう。下記の図1は保護者とのやりとりに関するデジタル化の状況だ。

図1 教員と保護者間の連絡のデジタル化の状況(学校向け調査)
出所:文科省「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト」学校・教育委員会の自己点検結果総括

給食費や教材費、学級費、部費(部活動費)など、さまざまな保護者負担(学校徴収金)があるが、口座振替やネットバンキングなどを活用して現金集金をなくしている学校(完全にデジタル化している)は36.5%にすぎない。

給食費は口座振替だが、教材費の一部や部費に現金集金が残っていたり、引き落としができない家庭には現金で持ってきてもらっていたりする学校が多いように思う。口座振替であっても、データ入力などで学校事務職員の手作業が残っていたり、督促で教頭や担任に多大な労力がかかっていたりする例も多いので、問題は残っている。

最近は保護者のLINEを通じて通知が届き、支払い、決済できるサービスなどもある。とくに口座振替では、メインバンクではない金融機関を指定される場合があって残高不足となりやすいので、保護者にとっても便利だ。なお、集金のデジタル化にまったく対応していない学校も17.3%ある。

児童生徒の欠席、遅刻などの連絡をデジタル化している学校も、ここ数年で増えてきたとはいえ、まだ6割(「完全にデジタル化している」「一部〈半分以上〉している」の合計)だ。できていない学校では、電話でやりとりしているのだろう。

早朝の貴重な時間が電話対応で奪われるし、話し中で通じないと、保護者のストレスにもなる。「電話のほうが詳しく子どもの様子が聞ける」「クラウド上のフォームなどでのやりとりになると、悪用する子がいる」といった声を学校現場からはよく聞くが、ものごとの優先度をもっと考えるべきだ。

なるべく電話で忙殺されないようにして、気がかりな子や家庭にだけ電話などにすればよいではないか。そう多くの子が悪用するわけでもないだろうし、電話でもなりすましはゼロではあるまい。

保護者とのやりとりで紙ベースのものが残っている学校も多い。「来月の遠足に参加しますか?押印のうえ、切り取り線から下を提出してください」といった連絡はざらだ。ちょっとした手間だけど、面倒くさいし、実印ではないハンコに信憑性は低い。

入学シーズンになると、家庭調査票や健康調査票で、住所や連絡先などを何度も紙に書かされる。市区町村立小中学校なら、保護者の住所を教育委員会は知っているはずで(現に入学案内の連絡は教委から郵送で来る)、どうしてまた手間をかけさせるのか?

電話と紙が大好きな学校・教育委員会

職員室もローテクな運用を続けている例は少なくない。下記の図2を見てほしい。

図2 学校内の連絡のデジタル化等の状況(学校向け調査、一部抜粋)
出所:文科省「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト」学校・教育委員会の自己点検結果総括

冒頭で述べたように、個人メールすら使えない、使わせない学校・教育委員会がある(文科省調査ではメアドが附与されていない学校は21.9%だが、附与されている学校でも使えない例はある)。チームで情報共有しやすくするために学校代表メールを原則とするといった運用をするのは1つの手だが、おそらく個人メールもない学校では電話でのやりとりが多くなっているのではないか。

私の場合、研修講師などをしていると、メールのやりとりだけで十分なのに、依頼文書を郵送したいという教育委員会や学校は多いし、講師を務めるという承諾書を押印して郵送せよというのもざらだし、「メールだけでは失礼なので電話でご挨拶したい」と言ってくる人までいる。

電話やオンライン会議で詳しく相談したほうがよいときはそうしているが、電話好きな人は相手の時間を奪っている感覚をもっと持ったほうがよいと思う(不要不急の電話で相手を拘束するほうがよほど失礼だと思う)。

また、紙ベースが多いのは、教職員間もそうだし、学校と教育委員会の間もだ。例えば、出張費の精算で交通経路を教員は手書きでメモして事務職員がシステムに入力しているといった例もたまに聞く。DXなどと言う以前の学校、教育行政がまだまだ多いことが今回の調査からもわかる。

※関連記事:学校の「過酷な勤務実態」に危機感、GIGAスクール構想の下での校務DXの可能性

なぜ、学校は時代遅れのやり方を続けるのか

かつての学校は、時代、社会の最先端を走っているところがあった。オルガンやピアノ、天体望遠鏡など、家庭にはないものが学校にはあった。修学旅行では家の人には連れて行ってもらえないところを訪問できた。

大学・短大卒の人材がわずかだった時代に、教員はよく勉強してきた人として、保護者や地域の人から尊敬されていた。実態はもっと多様だっただろうが(地域や家庭、人によっても多少違ってはいただろうが)、ざっくり申し上げて、そういう側面もあったと思う。

だが、今や多くの学校は時代遅れと見られるようになってきた。洋式化されたトイレやエアコンの整備が遅れたこともそうだし、今回注目しているICTの整備・活用もその象徴の1つだ。

こうした投資をさぼってきた教育行政(文科省や教育委員会)の責任は重い。だが、昨今は国が補助などでずいぶんと支援しているのに、教委側が対応できていないところも多いように見える。あるいは、無料もしくはそれほど高価ではない料金で利用できるクラウドサービスなども増えてきているのに、導入していない。

さまざまな背景・理由があるとは思うが、1つは、教職員や教育行政職員が忙しすぎて、目の前のことをこなす日々になってしまっていることが大きい、と私はみている。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)
教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人提供)

小学校の学級担任は、日中の多くを授業や給食指導などで出ずっぱりで、職員室の自分のデスクにゆっくりいられるわけではない。こういう状況では、メールでのやりとりよりは、電話のほうが早いという意識になるのは自然なことだろう。教育委員会から来るジャマくさい書類があったり、非効率な事務手続きが残っていたりしても、見直す手間、労力をかける気になりにくい。

加えて、校務と呼ばれる事務作業や手続きについては、1つの学校だけで見直せるものは少なく、多くは都道府県ないし市区町村の教育委員会が定めるルールや手続き、帳票の見直しが必要である。教職員が非効率さなどの問題に気づいても、教育委員会に伝わっていないケースも少なくないようだし(文句を言わずこなす真面目な人が多いのかもしれない)、伝わったとしても、教委の側で動いてくれなければならない。

さらに公立では、教職員も教育委員会職員も数年で人事異動が来ることも、双方にとって改善への阻害要因となっている。

要するに、多くの学校と教育委員会等にとって、校務のデジタル化や改善というのは、優先度が低いものだったわけだ。あるいは見直すほうが面倒くさい、労力がかかると思われていた。だが、そうしているうちに、学校のICT活用は、企業などと比較して周回遅れとなってしまった。

昭和なままのやり方を続ける「昭和99年の学校」

今年2024年は「昭和99年」とも呼ばれている。昭和という元号が続いていたら99年になるということだが、昭和なままのやり方を続け、アップデートできていない学校はまだまだ少なくない。日本中のすべての学校が古臭いままと言いたいわけではないけれど。

今回の調査では、自治体別の状況なども公表されていて、自治体間、学校間で開きがあることがよくわかる。その背景・要因を分析して、対策を考えていく必要はあるが、「昭和99年」のままの学校では何がマズイのか、共有しておきたい。この認識や危機感が、学校の情報化、DXの優先度を上げていくうえでもポイントとなるからだ。4つに整理する。

第1に、業務の効率や生産性が犠牲になっている。例えば、ファックスでのやりとりでは、ほかのプリントにまぎれて見落としがある。受信したか確認するため別途電話する。自治体のセキュリティ対策が厳しすぎて、スムーズにネットやメーラーが起動しないし、添付ファイルを送るのに何重も手間がかかる。現金集金や紙ベースの手続きを残して、学校事務職員や教頭らの時間を奪い続ける。

こうしたことを続けるのは、生産性向上の足をひっぱっているのだという認識を、教育委員会や校長は持ってもらいたい。

教育長ら教育委員会の幹部が「学校の働き方改革では、教員の意識改革が必要です」と述べるシーンに、私はよく出くわすが、意識改革と具体的な改善に向けた取り組みが必要なのは、教育委員会側もだ。

第2に、ICT化の遅れは、授業や児童生徒のケアにマイナスだ。校務で便利さを実感できない教員が、授業で積極的にICTを活用するようにはなりにくい。また、児童生徒や家庭に関わるさまざまな情報をデータベースにしている自治体では、気になる子への声掛けなどに活用している。教員の経験と勘に頼るだけでは、ノーマークな子どもが生じかねない。

第3に、採用、教職員人気への影響がある。最先端で、仕事を通じて成長できる職場で働きたいという希望をもつ若者からは、学校は選ばれなくなりつつあるのではないか。

第4に、保護者の信頼を落としている。保護者の学歴は上がっているし、共働き世帯も増えている。自分の仕事ではクラウドサービスなどをバンバン使っている保護者もいるし、みんなスマホを持っていて、便利なアプリに慣れている。なのに、学校はどうしていつまでも変わらないのか、変わろうとしないのか。入学後の書類や欠席連絡などはちょっとした手間にすぎないが、保護者のストレスと不信感を高めるのは、もったいない。

以上4つの影響を考えながら、今回の調査結果や自分の地域・学校の状況を振り返ってほしい。さっさとラクできることはしないと、もったいない。

(注記のない写真: jat306 / PIXTA)