新しい生活様式の到来を予測していた「思考実験」

通勤・通学といった移動を伴わず、会議室・講義室といった空間にも縛られない。このような新しい働き方や授業のスタイルは、パンデミックによる強制的なオンラインへの移行が生んだ副産物である。

新型コロナ禍によってあらゆる予測や計画に狂いが生じる一方、冒頭の生活様式の到来を「おうち完結生活」と命名し、一部予測をしていたという思考実験がある。

東京工業大学 未来社会DESIGN機構(DLab)が2020年1月に発表した『未来シナリオ』だ。

「人々が望む未来社会とは何か」を多様な参加者が集まり議論する共創の場を設けて検討し、現在の科学・技術の潮流や未来予測等の分析、国内屈指の理工系総合大学が有する研究者の知見、さらには大学生、高校生の若者の感性も交えたワークショップを通じて描かれた。

「未来への希望」が詰まった24のシナリオ

『未来シナリオ』は、200年先の未来を見据えた24のシナリオからなる。調査機関等による将来予測や国連のSDGsとの違いは、「ありたい未来」を描いたことにある。

各シナリオについて、学生、研究者、企業人などがそれぞれの視点から「予測ではない」人々が望む未来社会を吟味し、苦労の末に導かれたアウトプットだ。事実24のシナリオに目を通せば「未来への希望」を感じるであろう。

例えば、No.23「誰もが宇宙規模の視点・視野を持つことで紛争の蓋然性が低下する(2150年)」。

VRによる宇宙生活体験や積極的な宇宙生活の選択等の技術革新の観点にとどまらず、争いの種である土地や資源の価値のインフレ化、それに伴う「古典的な紛争」から人類が脱却する未来にまで言及している。誰もが「そうあって欲しい」と共感できる点がこのシナリオの肝だ。

重要な課題が存在しようとも、直面しない限り人類は動かない

実は冒頭で紹介したNo.8「おうち完結生活」は、2040年に実現するシナリオであったが、新型コロナ禍によって一部が前倒しで現実となった。

これが意味するのは、人類はピンチに直面し自分事として捉えた時、ようやく行動を起こすという事実であり、さらに技術革新や行動の「種」は既に社会に潜んでいるということだ。その潜在的な種をわかりやすく可視化したものが『未来シナリオ』であり、多くの示唆が含まれる。

AI時代、人生100年代 その先を見据えた「種」

例えば、No.9「AIがデザインした偶発的な出会いが、個人の成長を牽引するようになる(2040年)」は、現段階では「確実性」の追求が主眼となるAI活用に新たな視点を与えるであろう。

また、No.15「『60年×2回』の直列120年人生を送れるようになる(2050年)」は、超高齢社会に突入した日本における「学び直し」の重要性を改めて考えさせられる。

ぜひ、読者の皆様が今後の変革・行動の「種」として『未来シナリオ』を活用されることに期待したい。

 

 


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