時間術の効果が認められなかった実験は、他にも少なくありません。
ヴュルツブルク大学などのテストでは、研究チームがドイツのビジネスパーソンに時間術のトレーニングを指示。グループ研修を行ったうえで、全員に複数の時間術を学ばせました。
・予期せぬ中断に備えてあらかじめ計画を練っておく
・タスクの優先順位をつけて重要なことから手をつける
・必要な作業をすべてカレンダーに書き込んで視覚化する
・作業にかかった時間をすべてモニタリングして次に活かす
いずれも定番の時間術です。これだけ複数の時間術を組み合わせれば、さすがになんらかのメリットが確認されそうなものです。
しかし、結果は先のメタ分析と大差がありませんでした。どの時間術を使っても仕事の質と量はさほど改善されず、プロジェクトの締め切りを守る確率も上がらずじまい。効果が認められたのは、被験者が感じた仕事の満足度だけでした。
万人に効果のある時間術は存在しない
これらの結果について、先のメタ分析を手がけたブラッド・イーオンは、こうコメントしています。
「通常、時間術は仕事のパフォーマンス改善に役立ち、幸福度の改善はたんなる副産物に過ぎないと考えられます。しかし、私たちの分析は従来の常識を覆すものであり、時間術と生産性を結びつけるのはやめなければならないでしょう。時間術は、むしろ幸福度を高める技法としてとらえ直すべきなのです」
確かに、データが示す時間術の効果は小さく、スケジューリングやタスク管理といった定番の手法にもたいした成果は報告されていません。にもかかわらず、現代人が時間術への信頼を失わないのは、これらのテクニックが私たちのメンタルを改善してくれるからなのでしょう。
時間術を使って日々のスケジュールを組み立てれば、あたかも自分の人生を自分の力でコントロールできているかのような感覚が生まれ、そのぶんだけ重要なことをなし遂げた気持ちも得やすいはずです。やるべきことをすべて他人に指示される状況よりも、自らの手で時間を管理できる人生のほうが気分が良いのは間違いありません。
とはいえ、くり返しになりますが、時間術がもたらすパフォーマンス改善のレベルは、気分の改善度に比べればはるかにこころもとないもの。やはり現時点では、万人への効果が示された時間術は存在しないのです。
(10月27日配信の第2回に続く)
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