戦争において、国家は必ず国民に嘘を付く ヒトラーの演説でも「平和」を連呼していた
近代の戦争の火種となっているものの多くは、産業的、商業的な競争であることは誰の目にも明らかだろう。しかし、たとえば第1次世界大戦の連合国側が公表した戦争の目的は、「軍国主義の拡大阻止」「小国の保護」「民主主義の確立」の3つであるという。言うまでもないことだが、われわれはこうした大義名分に隠された欲望を見逃してはならない。
近頃、宗教と政治、政治と経済、宗教と経済……など、相互の関連性に言及した本が非常に多く刊行されている。そして、それを考えるうえで最も必要なのは、歴史に関する幅広い教養だと私は感じている。著者は、ブリュッセル自由大学で教鞭を振るう歴史批評学教授なのだそうだ。歴史批評学の視点で、世論を特定方向へ誘導するからくりを体系的に分析しているのだから、その切れ味は格別である。
思わぬ罠にかからないために
ただ、先ほども説明したように、本書は読みやすい構成で事例が豊富なため、ゆっくりした気持ちで向かえば、さほど知識がなくても意義深い読書ができるように書かれている。
だからむしろ、私のようにメディアに踊らされがちな人に、読んでもらうとよいのかもしれない。冒頭の章に書いてある本書の目的を読めば、解決困難な問題に白黒をつけようという敷居の高い本ではないことがわかる。
個々の発言意図を探るつもりはない。誰が真実を語り、誰が嘘をついているか、誰が善人で、誰が悪人かつきとめようというわけでもない。ただ、あらゆる戦争に共通するプロパガンダの法則を解明し、そのメカニズムを示すことが本書の目的である。
本書を読んだ後でニュースや新聞の情報にふれると、「ああ、これもポンソンビーの指摘していたあれではないか」と感じるようになるだろう。おそらくそれで、本書の目的は果たされている。というより薄手の文庫本を読んで、そこまでメディアリテラシーが高まるのなら言うことはないではないか。
最近は、戦争に限らず、ビジネスの世界でもプロパガンダという言葉が使われるようになった。思わぬところに罠が仕掛けられているかもしれない。美談や正論の影に、醜い欲望が潜んでいないかどうか、しっかり見極めていきたいものだ。
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