北海道・紋別「アザラシ救助隊」の過酷な救助現場 可愛くても野生動物に近づいてはダメな理由

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毛の色が重要なのは、換毛の程度でアザラシの週齢を推測することができるからだ。ゴマフアザラシは生後2~4週間、ワモンアザラシは生後6~8週間で大人の毛に生え替わる。これをもとにアザラシの週齢を予測する。

ケガの有無の確認も大切だ。元気な個体であれば、多少の擦り傷程度なら問題ないが、何か天敵に襲われたのか、見るも痛々しい全身傷だらけで保護される子もいる。呼吸の仕方については気にならないことの方が多いが、やたらと呼吸が速く、呼吸に合わせて背中が大きく上下しているような時は肺炎を起こしている可能性もある。

体の痩せ具合は背骨や腰骨のあたりを見るとわかりやすい。元気な個体は、骨のゴツゴツした感じは特に気にならないが、痩せている子は背骨や腰骨がはっきりと浮き出て見える。アザラシの子どもがとっかりセンターに保護される理由としては、さまざまな原因により「痩せてしまっているから」がもっとも多い。

安易に野生動物に近づいてはいけない理由

人が近づいた時に逃げたり、威嚇したりするかで、そのアザラシにどれほどの体力が残っているのかを予測することができる。ただし、相手は野生動物である。むやみに近づいたり、触ったりするのは、大変危険である。

前述のとおり、野生動物はどんな病原体をもっているかわからない。人獣共通感染症で弱っている可能性もあり、安易に触ることで、病原体をうつされてしまう可能性も考えられる。

また、弱っているように見えても、アザラシも生きるために必死だ。逃げ回る力は残っていなくても、最後の力を振り絞って、咬みつこうとしてくるかもしれない。もしも弱っているアザラシを発見したら、離れたところから様子をうかがいつつ、とっかりセンター(もしくは管轄する地方自治体)へ連絡してほしい。

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アザラシではないが、2016年には北海道で、トドの親子の写真を撮ろうと人間が近づいた際、親が逃げてしまい、10日間以上放置されたトドの赤ちゃんが衰弱死するという悲しい事件も起こっている。

この時は、とっかりセンターにもトドの赤ちゃんをどうにか保護できないかとの問い合わせがあったが、アザラシよりもはるかに大きくなるトドの飼育スペースを確保できないことや、生後数週間で親離れするアザラシと異なり、生後約1年間も母乳が必要なトドの飼育のノウハウがないことを理由に、断らざるを得なかった。

くれぐれも、専門家の方以外は安易に野生動物に近づかないようお願いしたい。

岡崎 雅子 元アザラシ飼育員

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おかざき まさこ / Masako Okazaki

1986年、神奈川県生まれ。水瓶座のAB型。日本大学 生物資源科学部 獣医学科卒業。幼少期からのアザラシ好きが高じて、北海道紋別市にあるアザラシ専門の保護施設「オホーツクとっかりセンター」で念願の飼育員になる。10年間の飼育員生活のなかで出会ったアザラシは69頭以上、そのうち38頭の保護に携わる。アザラシが前肢で顔をぬぐう仕草が好き(ぎりぎり顔に届くくらいの短い前肢が愛おしい)。好きなアザラシの部位は顔(表情がとても豊か)と、脇の下(柔らかくて触り心地が最高。脇の下をフニフニしている時に、その手を前肢でギュッと握られるのが至福)。著書に『寝ても覚めてもアザラシ救助隊』(実業之日本社)がある。

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