北海道・紋別「アザラシ救助隊」の過酷な救助現場 可愛くても野生動物に近づいてはダメな理由

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幸い、私は通報を受けたアザラシを発見できなかったことはない。現場に到着した時にはすでに海に帰っていたケースはあるが、その時は通報者さんがアザラシを見守っていてくれたため、探し回る必要はなかった。

通報したのに、保護が必要でなかったことに対して、申し訳なさそうにする通報者さんが多いが、そのように思う必要はまったくない。私たちの活動に賛同し、協力してもらえること自体がとても嬉しい。そして何より、「元気に海に帰れる子で良かった」と心から安堵する。

アザラシの保護現場
保護現場。中央にポツンと1頭、ホワイトコートの赤ちゃんアザラシがいる(写真:オホーツクとっかりセンター提供)

こんなこともあった。車で2時間かけて現場に到着し、見守っていてくれた方々にアザラシのいる場所まで案内してもらったところ、はるか遠くから私たち飼育員の姿を見た途端に、そのアザラシは海に逃げ帰っていったのだ。

見守っていてくれた方々は口々に、「今までずっとここにいたんですよ」「近づいても全然逃げなかったのに……」と話してくださり、この時ばかりは少し笑った。

「野生のアザラシたちのあいだで『緑色の上着を着た人間に誘拐される事件』が噂されているのでは?」などと冗談を言いながら、その日は手ぶらでセンターへ帰った。3日後、その現場の近くで保護されたアザラシがとっかりセンターに収容された。もしかしたら、あの時、海へ逃げ帰った子かもしれない。

保護アザラシ発見

無事にアザラシを発見できたら、現場の状況をカメラにおさめつつ、アザラシの様子を観察し、同時に通報者さんへの聞き取りを行う。観察するのは、毛の色・ケガの有無・呼吸の仕方・痩せていないか・近づいた時に逃げたり威嚇したりするかなど。

通報者さんに聞くのは、主に発見時の様子で、動いていたか・乾いていたのか濡れていたのか・アザラシに対して何かしたか(餌をあげた、水をかけた)などだ。

詳細は後述するが、野生のアザラシを発見しても、むやみに手を出すべきではない。人の手から自力で餌を食べる可能性はかなり低いし、下手をすれば咬まれる可能性もある。水をかけると体温を奪われ、さらにアザラシを衰弱させてしまう。

通報時に毛の色は聞いているが、一般の方が言う「白い」アザラシは2種類いる。ひとつは言葉どおりの真っ白いアザラシ、いわゆるホワイトコートと呼ばれる白い毛におおわれた赤ちゃんアザラシだ。そしてもうひとつは、毛が乾いているアザラシである。

ホワイトコートが抜け落ちたアザラシは、種類にもよるが、灰色っぽい毛に模様があることが多い。ゴマフアザラシの成獣(大人)を想像していただくとわかりやすいだろう。ところが、この灰色っぽい毛が乾くと、かなり白っぽく見えるのだ。長時間陸に上がっていたアザラシは毛が乾いて白っぽく見え、これを一般の方は「白いアザラシ」と表現する。

保護される「白いアザラシ」は、体の一部にホワイトコートが残っていることは多いものの、圧倒的に後者だ。全身ホワイトコートの赤ちゃんアザラシに出会える機会はめったにない。

独り立ちからしばらく経ち、痩せて保護される幼獣と異なり、授乳中の迷子や離乳して間もない全身ホワイトコートの赤ちゃんアザラシは、丸々としたぬいぐるみのような体形で、さらに可愛さが引き立つ。現場に到着して、思いがけず全身ホワイトコートの赤ちゃんアザラシに遭遇した時には、かなりテンションが上がる。

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