実は、私がこの「うようよと動き回る何か」を初めて見たのが、その年に保護されたクラカケアザラシの便の中だったのである。もちろん、ゴマフアザラシ2頭も保護個体である以上、もともと何をもっていてもおかしくはない。
動物の体内に大人しく潜んでいた寄生虫が、ストレスなどによる宿主の免疫力の低下をきっかけに、悪さをすることもある。保護個体であれば特に、宿主の栄養状態が回復したことにより、中にいる寄生虫も元気になってしまうということだってないわけではない。
ただ、当時は簡単な消毒作業は行っていたものの、カッパもゴム手袋も共用の物を使用していた。そのため、人が病原体を運んだ可能性を一番に考えたのだった。試行錯誤の末、幸い3頭とも下痢は治まった。
保護個体の受け入れ準備の話に戻ろう。他に用意しておくものは、体重計、聴診器、体温計、アルコール綿、メジャー、測定記録用紙、採血セット、電気マットである。
保護の現場へ
さて、保護現場へ向かった飼育員は、現場に到着すると、まずはアザラシの様子を確認する。文章にするととても簡単だが、ここまでたどり着くのにも、なかなかの労力を要する。
とっかりセンターでは、オホーツク海沿岸のアザラシの保護要請を受け入れている。出動範囲は、北は枝幸町、東は網走市までで、車で片道およそ2時間の道のりである。それ以上に遠い場合は、ご相談いただき次第、対応の検討をしている。
やっとの思いで現場周辺にたどり着き、通報者がそのまま現場に残って、アザラシの様子を見守っていてくれた場合は、とてもスムーズである。基本的に、飼育員は2名以上で現場に向かう。多少入り組んだ場所であったとしても、通報者と電話で連絡を取り合いながら案内してもらい、すぐにアザラシを発見することができる。
しかし、仕事へ向かう途中にアザラシを発見して、通報をくれる方もいる。そうでなくても、通報を受けてから準備を始めて2時間以上、現場に留まりアザラシを見ていてくれとは、とてもお願いできない。
通報者が現場を離れている場合は、広い海岸線を小さなアザラシ1頭を探して、延々と歩き回り続けなければならない。足元は砂浜だったり、岩場だったり、どちらにしても普通に歩くだけでも大変だ。そこを、保護アザラシを収容するためのコンテナやタオルを抱え、周囲を見渡しながら歩き回る。この時点で、すでにかなりの体力を消耗する。
野生動物の保護色というのは、なかなかのものだ。アザラシがポツンと1頭、海岸に上がっていればすぐにわかりそうなものだが、似たような色の岩や流木に紛れてなかなか見つからない。気づかずにかなりアザラシに近づいてから「あっ! いた!」と気づくことも多い。
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