統一教会へ「解散命令」請求をしない文化庁の謎 「信教の自由」を理由に及び腰な政府の姿勢

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──統一教会だけでなく、文化庁に提出された宗教法人の財務諸表などの文書は公開されません。

税制優遇を受けている場合や、ほかの公益法人であれば透明化されるべきお金の流れが、宗教法人になるとベールに包まれる。信教の自由が錦の御旗になっているからだ。しかし、行政がお金の流れを公開しても、信教の自由を侵害することにはならない。お金の流れを公開されて困るような宗教団体は、そもそも宗教法人として保護する必要性に欠ける。

宗教法人法は宗教団体に対する性善説に基づいている。統一教会に限らず、宗教であることを隠れみのにして、反社会的な行為をする団体が紛れ込んでいる可能性がある。しかし信教の自由を盾にされると、どこまで介入していいのか、行政側も腰が引けてしまう。

信教の自由は無制約ではない。心の信仰は守られても、外形的に違法行為や反社会的な行為をすれば制裁を受けるのは当然だ。憲法上の権利が無制約ではないことは、ほかの権利も同じ。表現の自由は名誉毀損やプライバシー侵害に当たれば制約されることは、よく理解されている。ところが、信教の自由になると急に及び腰になる。

「カルトSOS」が必要

──宗教2世の当事者からは、子どもの信教の自由が侵害されているという声が上がっています。ただ、親が教育する権利も保障されています。

そこは一番の難題だ。家庭の中に公権力がどれくらい踏み込めるのかという問題になる。児童虐待と同様に、虐待が疑われる、学校に行かせないなど外形的に見える部分にしか介入できないだろう。

例えば、カトリックでは幼児洗礼がある。それを、成人になってから自分の意志で洗礼を受けるようにと国家が決めるのは、信教の自由を侵害すると教会側は反発するだろう。宗教や親の側からすると、信仰の継承はとても重要な価値だ。「子どもを洗脳してはダメ」と言うのは難しい。

ただ、子どもが助けを求めたり、相談できたりする窓口は必要だ。フランスではカルト問題に悩む人が電話できる窓口がある。日本でも「カルトSOS」といった電話相談窓口を早急に設置する必要がある。子どもの異変に気づいた学校の先生など、周囲も相談できる窓口だ。こども家庭庁に窓口を一本化し、そこで2世問題に対応するのも一案だろう。

──行政機関に相談しても宗教が絡むと介入できないと聞きます。

2世の人たちが、育児放棄に遭ったり、経済困窮に陥ったりしていても、行政や警察は「宗教の問題だから」と立ち入ろうとしない。だが、児童相談所の仕事は家庭の中に入ることだから、信教の自由があるからといって、ひるむ必要はない。宗教に対する知識不足や誤解が、さまざまな不幸を生んでいると思う。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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