キリン「長い足の半分は足の裏だった」驚きの事実 真ん中にある関節は「ひざ」ではなく「かかと」

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偶蹄類と奇蹄類は、どちらもひづめをもったよく似た動物たちのグループだが、「ひづめをもった共通の祖先から枝分かれしてきた」というわけではない。「いちばん初めにひづめをもった偶蹄類の祖先」と「いちばん初めにひづめをもった奇蹄類の祖先」はまったく別の種で、それぞれが異なる進化を遂げてきたといわれている。

実際に、2つのグループでは指が減少していくプロセスにも違いがある。化石として見つかる種やいまいる動物の特徴を見比べていくと、偶蹄類の仲間では、まず親指が退化して4本指になり、その後さらに人差し指と小指が退化して、最終的に中指と薬指の2本になったことがわかる。4本ひづめの仲間たちは、2本になる前段階でストップした状態だ。

これに対し、奇蹄類の仲間では、親指・小指が順に退化してなくなり、その後さらに人差し指と薬指が退化し、中指1本のみになったと考えられている。一見同じような進化のかたちでも、歩んだ道筋はほんのわずかに異なっているのだ。

ちなみに、ひづめは爪が変化してできたものなので、ヒトの爪と同じく、時間がたつと少しずつ伸びてくる。通常、動き回ることによって自然と削れていくのだけれども、年老いて運動量が減ってしまった個体などでは、ひづめがうまく削れず、伸びすぎてしまうことがある。このようなひづめは「過長蹄(かちょうてい)」と呼ばれ、飼育するうえで最も気をつけなければならない疾患のひとつだ。

爪切りのトレーニングをする動物園もある

ひづめをまっすぐ地面につくことができなくなると、足に体重をうまくかけられなくなり、歩き方が変になって最終的には膝や股関節を痛めてしまう。体が大きな動物の場合、足を痛めて立てなくなってしまうと、横たわった際に自分の体重で内臓が圧迫され、呼吸や消化がうまくできずに死にいたることもある。

『キリンのひづめ、ヒトの指 比べてわかる生き物の進化』(NHK出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

爪のケアは、偶蹄類や奇蹄類を飼育するうえで非常に重要なことなのだ。

そのため動物園では、ひづめが伸びないよう、さまざまな対策がとられている。運動場に硬い火山岩のかけらを敷いて削れやすい環境を作る園もあれば、“爪切り”ができるようにトレーニングをする園もある。

単なる“爪切り”といっても、そう簡単ではない。爪を切っているあいだ、じっとしていてもらわないといけないし、爪を削る器具の音に慣れてもらう必要もある。人間が足をさわっても嫌がらないようにもしなくてはならないし、ひづめの裏まで綺麗にできるよう、足を台の上に載せられるようにもしたい。十分な訓練をつまないと、器具でキリンが怪我をしてしまうかもしれないし、キリンに踏まれて人間が怪我をするおそれもある。

実際に爪を切れるようになるまでには、とても長い時間がかかる。それでも、過長蹄で苦しむ動物が少しでも減るよう、多くの方が工夫を凝らし、知恵をつくし、尽力しているのだ。

郡司 芽久 解剖学者、東洋大学生命科学部生命科学科助教

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ぐんじ めぐ

1989年生まれ。2017年3月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了し、博士(農学)を取得。同年4月より日本学術振興会特別研究員PDとして国立科学博物館に勤務後、筑波大学システム情報系研究員を経て2021年4月より現職。専門は解剖学・形態学。第7回日本学術振興会育志賞を受賞。著書に『キリン解剖記』(ナツメ社)。

 

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