不通の鉄路が工事用道路に、肥薩線被災地の現状 豪雨災害2年、列車の代わりにトラックが走る
およそ20分後、球磨川第1橋梁に到着した。1908(明治41)年に建設された歴史ある橋だ。復旧する場合は残された橋を撤去し、新しい橋を新設することになるという。河川整備基本方針の変更に伴い、橋梁をかさ上げする必要があるためだ。「川の流れが速いため橋脚の設置工事は難しいものとなりそう」(堀江部長)。それだけではない。球磨川はアユの放流でも知られており、工事にあたっては地元の漁協の理解も必要になる。東日本大震災で被災した三陸鉄道の例で言えば、宮古駅近くを流れる閉伊川の橋梁復旧では、サケの遡上やアユ稚魚の放流のため、河川の中で工事ができるのは1年の半分くらいだった。
橋梁のかさ上げに伴い、隣接する鎌瀬トンネルも線路の高さを合わせるため、天井高もかさ上げする必要が出てくる。トンネルにも手を加えるわけだから大掛かりな工事になる。これらを含めた復旧費は64億円に及ぶ。
球磨川第1橋梁を後にして瀬戸石駅に向かう。車窓越しに地盤が崩壊して線路がめくれあがった状況が連なる。瀬戸石駅があった場所に到着したが、ホームは流失して跡形もない。「今回の豪雨で最も被害を受けた場所です」と、堀江部長が説明した。駅の周囲には1軒の家がぽつんとあるだけであとは山と川のみ。対岸には民家が並ぶが周囲に橋はない。JR九州によれば、瀬戸石駅の利用者は「1日平均で1人」。2019年から2020年にかけて通学定期利用者が1人いた。この利用者がいなくなった後、この駅の存在意義ははたしてどうなるか。
復旧費用は総額235億円
瀬戸石駅からさらに進むと、白石駅が見えた。この駅は被災しなかったが、3線ある線路のうち真ん中の線路はアスファルトで固められて工事用道路になっていた。
その後、第二球磨川橋梁に到着。こちらも球磨川第1橋梁と同じく1908(明治41)年に完成した。橋は崩壊しており、復旧する場合はやはりかさ上げする必要があるほか、「川幅を50m広げる計画もあり、その場合は橋を100m程度長くする必要がある」(堀江部長)。こちらも古い橋を撤去し新しい橋を造らなくてはいけない。その費用は約61億円と試算されている。球磨川第1橋梁と第二球磨川橋梁を合わせると復旧費用は125億円。さらに流失した線路や駅の復旧費用が110億円かかる。肥薩線復旧費用の総額は235億円。JR九州には重い負担だ。
もっとも、国は球磨川第1橋梁と第二球磨川橋梁の復旧を河川事業と連携した公共事業とすること提案している。そうなると2つの橋の復旧費用は国が負担することになり、JR九州の負担額は125億円から3億円に減額される。それ以外の費用も道路復旧事業との連携で減額が可能で、これらの連携を合わせればJR九州の負担額は235億円から76億円に減額できると国は説明する。さらに県や自治体の支援も加わる。鉄軌道整備法に基づく災害復旧補助制度や自治体が線路や駅舎などのインフラを所有する上下分離スキームを活用すれば、JR九州の最終的な負担額は25億円まで軽減される。
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