「防衛力の抜本的強化」のための増税はありうるか 来年予算の概算要求で防衛省が異例の増額要望

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しかし、2010年代の予算編成を振り返れば、税の自然増収は、無駄な歳出増の温床に成り下がっていた。補正予算編成が常態化し、景気拡張期でも「景気対策」と称しては、巨額の歳出を盛り込んだ補正予算を編成し、そこには、税の自然増収も充てられていた。

結局、税の自然増収は、財政収支改善にはあまり貢献せず、補正予算による歳出増を助長しただけだった。

それを放置すべきではない。それを食い止めるには、自然増収が生じた際には、その多くは、補正予算の財源には回さず、当初予算での歳出の追加増額の財源に回すことを、あらかじめ決めておくことが1つの方策である。その分だけ、国債増発を抑えられる。補正予算で無駄遣いに回されるよりもましだろう。しかも、コロナ禍からの回復局面を迎える今後数年間は、自然増収が生じうる。

「国債で賄う」派の難点

与党内には、防衛費の増額をすべて国債で賄うべきとの意見もあるといわれる。一見すると、国民に直近の負担増を求めずに防衛力を強化する、と勇ましいように見える。しかし、直近の国債発行は、大半が10年以下の満期での発行となって借り換えを余儀なくされる。100年満期とかと超長期の国債は、市場で民間金融機関の買い手はつかないし、そんな国債を日銀は市場で買い入れられないから、発行は困難だ。

となると、防衛力強化とは勇ましいが、それで揃えた防衛装備品は、技術進歩が激しく10年も経てば陳腐化して使えなくなるのに、その購入費に充てた国債は、10年後以降にはゼロよりも高い金利を払わなければならない国債として借り換えられ完済されるまで、その元利償還負担だけが国民に及ぶ。

それよりもむしろ、防衛費のための追加の税負担を、国民に正面から問い、負担増と歳出増のバランスをうまくとって、多くの賛同を得ることによって、国民の生命と財産を守るとともに、危機時にも対応できる財政余力を残すことができる。

2023年度の防衛費をいくらにし、その財源をどう賄うかは、今年末までの安全保障論議の中で決まっていくこととなる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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