日本企業の「戦略暴走ケース179編」に何を学ぶか 戦略論は容易なのに実際の戦略は難しい真因

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この本のテーマは、戦略の難しさを知ることにある。それゆえ、何かが盲点に入って見えていない状態で、よかれと考えた経営陣が策を打ち、その結果として企業が惨劇に突き進んだ「戦略暴走」のケースに着目した。

企業が始めたばかりの新規事業をたたんだり、開いたばかりの海外拠点を閉鎖するという報道に接したら、まずは戦略暴走と考えて差し支えない。戦略が暴走すると、投資が非稼働資産に化け、貸借対照表上では遅かれ早かれ減価を迫られる。そうなると決算時に特別損失を計上せざるをえず、第三者の知るところとなる。

すべての特別損失が戦略の暴走に起因するわけではないが、戦略暴走はどこかで特別損失に帰着する。そこで本書では、巨額の特別損失を出したという結果をもって、戦略暴走と呼ぶことにした。

ここに収録したケースは、巨額の特別損失─実務上の区別が曖昧なため営業外損失を加えて特別損失と本書では呼んでいる─を手がかりとして、機械的に選別したものである。

要点は、恣意的なケース選択を可能な限り排除するところにある。選定基準を満たした230ケースのうち、暴走に起因する固有の損失が小さいと判明した案件を除外して、最終的に記述したのは179編になる。

国際化、多角化、不動産ほか

戦略の暴走というと、日本にはメディアが大々的に取り上げた事例があるが、そのいくつかはここに登場しない。まず安宅産業のように、遠い昔に消滅してしまった企業は情報収集に困難を来す。

逆に新興企業では、NTTドコモのように兆の桁に届く特別損失を出していても、その大小を評価するのに必要な過去のデータが存在しない。こうしたケースは、選定基準によって除外した。

逆に選定基準を満たすケースは網羅するよう努めたが、ここにも限界がある。まず、同一の原因に基づく特別損失を複数の決算期に分割計上されてしまうと、本来は巨額と見なすべき損失なのに、機械的に捕捉できなくなる。

また、総合電機メーカーのように早くから米国式連結決算を採用した企業では、特別損失の中身がわからない。こうしたケースは、全体工数の配分を考えて、深追いしないことにした。

取り上げた179ケースは、アルフレッド・D・チャンドラーの戦略分類─国際化、多角化、垂直統合─に従って3つの部に分けてある。

国際化戦略が暴走したケースは第1部、多角化戦略が暴走したケースは第2部、その他の暴走ケースは第3部に登場する。3つ目の戦略分類に相当する垂直統合戦略の暴走は、多角化と区別する意義が小さいため、主に第2部に併合した。

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