侵攻後ロシアが日本中古車をこぞって求める事情 今年上半期の輸出額は前年同期の1.5倍に膨張

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では、日本から輸出される中古車はどういったルートで積み出され、運ばれていくのか。貿易統計を見ると中古車の税関別の輸出状況が分かる。今年上半期のトップ5(輸出台数)は表のとおりだ。

トップ5のうち、木更津以外はすべて日本海側にある。輸出台数、輸出金額ともにトップの伏木の今年上半期の実績は、前年同期と比べると輸出台数は1.68倍、輸出金額は2.4倍に膨れ上がっている。

元々はロシアからの原木を運んできた船の採算性を高めるため、帰りに日本の中古車を「帰り荷」として運んだのがはじまりだとされる。半世紀ほど前の話だ。それが今では、伏木富山港は日本最大のロシア向け中古車輸出向け拠点となっている。

8割以上を日本車が占める中古車展示場

さて、こうして日本の港から積み出された中古車の大半は極東最大の港町・ウラジオストク(人口約60万人)に運ばれる。ウラジオストク市郊外の丘陵地帯には巨大な中古車展示販売場があり、8割以上を日本車が占めているといわれ、そこにロシア国内各地から業者が買い付けに来ている。

また最近は、展示場売買を介さないオンライン取引が活発化してきていて、日本のオートオークションで仕入れたクルマの情報をサイトにアップして、ユーザーに直接販売するといったビジネスモデルが確立されているとの情報もある。

ロシア国内は右側通行(自動車は左ハンドル)だが、ウラジオストクやモスクワなどでは、右ハンドルの日本の中古車が当たり前のように走っている。ユーチューブやグーグルのストリートビューでその様子を確認できる。

日本の中古車は135カ国・地域に輸出されている。世界各地で再利用され、その国の人々の生活に役立っていることは喜ばしい話だ。とはいえ、一方的な軍事侵攻を行い、世界の多くの国が経済制裁を科しているロシアへの中古車輸出が当たり前のように行われ、輸出規模が拡大している現実には、なんだか釈然としないものがある。これがグローバル経済、ビジネスの実態ということか。経済制裁の実態、実効性が問われている。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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