25年で激変した「香港」中国返還前の乗り物の姿 地下鉄は発展途上、2階建てバスや船が大活躍

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一国二制度のもと中国に返還された香港だが、近年はさまざまな面で中国の影響力が強まっている。返還25年目となった今年2022年、「象徴的」ともいえる延伸があった。

それは、旧KCR線(現・MTR東鉄線)が九龍半島のホンハム駅(かつての九龍総駅)からビクトリア湾の海底トンネルを通って香港島に延び、香港特別行政区政府総部の建物がある金鐘(アドミラリティ)駅とつながったことだ。

イギリスが敷設した広州と九龍をつなぐ鉄道は九龍半島の先端で終わっており、そこから先は渡し船「スターフェリー」で香港島に向かう、というのがかつての姿だった。中国本土と香港を結ぶ歴史ある在来線が香港島まで、しかも返還後の政府中枢がある金鐘へ乗り入れるというのは、いかにも「本土と香港の直結」を示す動きといえるだろう。

香港に行ったら必ず乗りたい香港島への渡し船「スターフェリー」=1997年(筆者撮影)

伝統のルートはこのまま消える?

旧KCRをめぐってはもう一つ大きな動きが起こりそうだ。香港と広州を結ぶ列車「直通車」は現在、コロナ禍の影響で全便運休となっているが、香港特区政府はこれをそのまま廃止にしようとしている。香港には2018年9月、広東省からの高速鉄道が直結。本土の大都市への直行便もある。直通車は返還直前に北京や上海への長距離直通列車も開設され、観光客の利用も多かったが、中国全土の高速鉄道網に香港も組み込まれた今、在来線経由の直通車はすでにその役目を終えたと考えているのかもしれない。

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この25年間で、香港の交通インフラは「陸海空」のいずれも大きく変化した。ある1都市で起きた交通網の変化としては劇的で、仮に1年ほど目を離すとまったく知らない高速道路や鉄道が次々と完成、開業するという状況が続いた。日本から香港へ出張や観光で数日間滞在する程度では、最新事情がアップデートできなくても無理はない。

香港はここ数年、「急速に中国化が進んでいる状況」と言っても過言ではないだろう。中国政府は、香港と広東省を一体化させた地域を「大湾区」と呼び、一つの経済圏を形作ろうとしている。そうした中、香港と本土を直結する交通インフラの整備も著しく、2018年秋の高速鉄道乗り入れに続き、香港とマカオ・広東省珠海市を直結する港珠澳大橋も開通し、本土から香港の中枢部への大幅な所要時間短縮が実現している。それに加えて、今年は旧KCR線をも香港島まで引っ張ったことで、さらに「香港の中国化」への傾向が強くなったようにもみえる。

香港への「国家安全維持法」の導入により、かつての自由闊達な雰囲気が失われつつあるとの声もある中、交通ネットワークが今後どのように「中国化」の波にさらわれるかも注目しておく必要がありそうだ。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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