「アベノミクス」で安倍元首相が残した負の遺産 目標未達が逆説的に安倍政権の長期化に作用した
だが、アベノミクスは最良の結果を得られなくても、歴代最長の7年8カ月に及んだ第2次安倍政権の継続にプラスに作用した。なぜなら、目標未達のたびに安倍政権は「うまくいかないのは金融緩和や財政政策が足りないからだ」として、株高などにつながる追加策を打ち出し、それが選挙勝利の原動力になったからだ。
具体的に見てみよう。第2次安倍政権発足後、最初の国政選挙となった13年7月の参院選。このときは、アベノミクスが順調なスタートを切ったさなかで、選挙に圧勝して衆参両院で多数派が異なるねじれ国会を解消した。
だがその後、円安にもかかわらず輸出数量や生産が伸びず、消費増税や欧州債務危機の影響などもあって景気の伸び悩みがはっきりしてきた。「2年で物価上昇率2%」の目標達成が難しいことは誰の目にも明らかになり、株価上昇も完全に止まった。
そこで14年10月に繰り出したのが、日銀の国債購入拡大(追加金融緩和)とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による株式購入の拡大(運用ポートフォリオ変更)だ。
これで株価は一気に反騰。さらに安倍首相(当時)は15年10月の予定だった8%から10%への消費税率引き上げを17年4月へ延期すると表明し、14年12月に解散総選挙に打って出て大勝した。
増税延期という手段
16年7月の参院選でも消費増税の延期について国民の信を問うという構造をつくり、アベノミクスの目標未達をむしろ味方につけた。
その際の紆余曲折は興味深い。1回目の延期を決めた14年、安倍首相は「リーマンショック並みの危機がない限り、消費増税は再延期しない」と公約していた。
再延期を念頭に置き16年5月、安倍首相は折からの中国経済変調と世界の商品・金融相場の下落に対し、「現在はリーマンショック前夜だ」とG7伊勢志摩サミットで各国首脳に訴えかけた。だが、メルケル独首相(当時)が「世界経済は堅調だ」と反論するなど共通認識は得られなかった。
しかしそれでもめげない。記者会見で「現時点ではリーマン級のショックは発生していないが、これは従来の約束とは異なる新しい判断だ」として19年10月への消費増税再延期を表明。信を問うという形で参院選になだれ込んだ。野党も増税延期や凍結を主張する中、自民党は議席数を伸ばした。
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