粉飾倒産がコロナ禍を脱する今から増えてくる訳 倒産件数も休廃業も政策的に抑え込まれた反動で
営業担当者にはノルマがあります。金融機関の営業であれば、企業にどれだけお金を貸せるかの競争です。だから、本音ではできるだけたくさん融資をしたい。けれど、「この会社のこの決算書では融資するのが厳しい」というとき、「もっと見栄えのいい決算書を出してくれないか」と思ってしまうということです。先ほどの関係者は、「私のような第三者がいるのに、そこまでして『きれいな決算書』が欲しいのかと、横で見ていて思った」そうです。
こんな証言もありました。
「ある経営者が大幅な赤字見込みを金融機関に報告したら、『架空の売り上げを載せれば融資する』と、営業担当者に言われた。その通りにしたら、決算書を不審に思った他の金融機関から説明を求められ、粉飾を知られてしまった。結局、それが引き金となって倒産です」
誘いに応じてしまう経営者には、切実な事情があります。
使命感から粉飾する経営者たち
創業以来、あるいは経営者の立場になってから、日々、資金繰りや環境変化への対応に神経をすり減らしながら経営してきた会社。何があっても絶対に守りたい──。その一心から決算を粉飾して、窮地を乗り切りたくなる気持ちはよく分かります。
銀行から融資が引き出せず、経営が破綻すれば、困るのは自分だけではありません。従業員の雇用も失われます。会社を成長させるのは、より多くの雇用を生むため。そんな使命感に駆られて事業拡大に邁進する経営者も多くいます。粉飾に手を染めたのも、従業員のためを思って会社を延命したかったから。「それがそんなに悪いこのか」というのが、少なからぬ経営者の本音です。
粉飾にはもちろん法的リスクもあります。現に今年5月には、3年前の2019年8月に民事再生手続きを申し立てた埼玉県の焼きとりチェーン、ひびきの創業者が、詐欺の疑いで逮捕されました。多重リースによる粉飾が理由です。この会社が倒産に至ったいきさつは、『なぜ倒産 令和・粉飾編 ― 破綻18社に学ぶ失敗の法則』で詳しく解説しています。
法的リスクを訴えるだけでは粉飾の誘惑は断ち切れないかもしれません。 なぜなら、経営者の多くは「法律を守ることは大事だが、わが子同然の会社を存続させることはもっと大事」と考えているはずだからです。経営者と間近で接している関係者の多くも、「会社や従業員、取引先を守るため、経営者はやむを得ずに粉飾決算に手を染めている」と、一定の理解を示します。
しかし皮肉なことに、粉飾経営はいちばん避けたい「最悪の結末」への最短ルートでしかありません。それがなぜなのか、次回(7月14日配信予定)、この問題をさらに深めたいと思います。
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