春ドラマの最終回にガッカリの声が続出した事情 放送枠が増えても質の低下で見逃し配信も低調
また、男性のヒロイズムを描く路線の限界も見えてきた。木村拓哉主演の「未来への10カウント」(テレビ朝日系)は、映画『トップガン マーヴェリック』にも通じる中年男性の復活劇で、これまで幾度も描かれてきたパターン。ボクシング選手だった主人公の抱える辛い過去から復活のチャンスを得て再生へという展開は、既視感が強くて、焼き鳥屋という要素しか意外性がなかった。
フジテレビ水曜夜10時枠の第1弾「ナンバMG5」も、筋金入りのヤンキー一家に育った主人公が普通の高校生になりたいというだけで10話引っ張るのは無理があった。
どの作品もキャストは好演。また、起承転結や伏線回収などの構成はしっかりしており、大きな破綻はないのだが、とにかく脚本家の色(作家性)が感じられず、魅力的なセリフも少なかった。演出も冗長だったりテンポが悪かったりし、特に配信サービスで海外ドラマと同じ市場に並ぶと、分が悪い。もしかすると1.2倍速や1.5倍速の早送りで見る人の増加に合わせているのかと邪推してしまうほど、ゆったりした展開のドラマが多かった。
ドラマバブルがはじけないことを祈るばかり
よく言われるように、ビジネスモデルとしては個人視聴率や配信でペイする時代なので、ヒットせずともキャストのファンなどコアな層に見てもらえればいいという考えは、テレビ局側の都合であって、質が高く面白いものや考えさせられるものを見たいと望む視聴者のためにはなっていない。
夜10時台でも子ども向けのような単純なストーリーが展開されているのを見ると、「クリエイターたちは本当にこのドラマを作りたいのだろうか?」と疑問に思わざるをえない。春ドラマの脚本家や監督には、これまでヒット作「踊る大捜査線」や「HERO」、意欲作「ラスト・フレンズ」や「トドメの接吻」など、オリジナルドラマで面白いものを作ってきたベテランが多かった。
もちろんベストを尽くしたとしても毎回ヒット作を出せるわけではないのだが、春ドラマから垣間見えたのは、配信オリジナル作品を含めて制作本数が増えたものの、優秀なクリエイターの数は足りておらず、スタッフはいっぱいいっぱい。シナリオ作りや演出プランにこだわる時間や予算もなく、俳優は脚本や演出に満足していなくても、なんとか説得力が出るように演じるしかない、そんな悲しい現状。マンパワー不足が解消されて、このドラマバブルがはじけないことを祈るばかりだ。
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