「幸せ」より「不幸軽減」を、ミスマッチを検証する指標作りが必要

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 しかし、国の政策指標として幸福度を使うには、作る側にも見る側にも注意が必要だ。辻氏は「幸福度指標は幸福の最大化を目指す政策への判断材料として活用されるのではく、不幸の要因を取り除く、あるいは軽減するための施策に役立つように運用すべき」と主張する。少子高齢化、人口減で経済成長が望めない、財政的にもさらに厳しい状況が想定される中、政策と国民のニーズとのミスマッチを避けることがこの新たな指標の使命である。また、仮に方向性は間違っていなくても政策実行の配分・バランスやタイミングを誤れば、限られた財政のロスになる。冒頭の事例のように、所得など従来の指標では把握できない現象を正確にとらえていくことが求められる。

また、国民の幸福の最大化を目指す政治はポピュリズム(大衆迎合主義)に陥りやすい。そのため、目標指標が恣意的になる危険性がある。

政府は成長戦略の中で20年までの実質成長率を2%と掲げているが、民間調査機関の予測では1%台前半がやっと。成長という言葉がむなしい水準だ。よって、「成長」という言葉を「幸福」に置き換える……。

幸福追求の先に格差社会?

しかし、その幸福はさらに厄介な代物かもしれない。幸福感には、一時的に高まってもそれに慣れてしまうと減退してしまう順応性(順応仮説)があることが知られている。また、所得に対する幸福感も絶対水準よりは相対的要因に左右されるといわれる。もしかしたら、幸福度向上の向こうに格差社会があるのかもしれない。

成長ゼロだがサステナブルな社会を築くためには、幸福感や満足感を最大化することを目指すのではなく、不適切な施策や政策のミスマッチによって起こる不幸をなくすこと、それをしっかりチェックする姿勢を優先すべきだ。そのためにも、「幸福度」を測るのではなく、「不幸回避」や「不幸軽減」を主眼に置いた指標作りが必要とされるといえるのではないか。

(シニアライター:野津 滋 =週刊東洋経済2011年3月5日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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