「台湾海峡は中国主権」発言で見える中国の思惑 国連海洋法条約に未加盟のアメリカの弱点を突く

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一方、中国は1990年代から国際法の精神に沿うよう、遅れた国内法の整備を急いできた。国連海洋法条約の発効に併せて1992年に「領海法」を制定したのもその例だ。また2021年2月には「海警法」を制定した。日本政府やメディアは、中国が海警局を「準軍隊化」し、「武力で尖閣諸島(釣魚島)を奪おうとしている」と脅威論を煽った。だがその後の尖閣情勢をみれば、挑発が目立つのは右派組織が雇った漁船の行動であり、「海警法」は「国際法と国際慣行に合致する国内法整備の一環」という主張は合理的だと思う。

中国の意図については、習近平国家主席が同じ2022年6月13日、「非戦争軍事行動要綱」に署名したことと関連付ける観測も出た。「行動要綱」の全文は公表されていないため、制定の意図もはっきりしない。だからその名称から、ロシアのウクライナ侵攻を「戦争」ではなく「特別軍事行動」と規定したことを想起する人もいると思う。

台湾では、同要綱と台湾海峡の法的定位を重ね合わせ「台湾海峡の内海化を目指す動き」とみる解釈も出た。しかし新華社電では、要項は「リスクの挑戦を未然に防ぎ、緊急事態に対処し、人々の生命と財産の安全を保護し、国家の主権、安全、開発の利益を保護」とされ、主要には、洪水など自然災害での軍救援活動や新型コロナ救援など、国内安定を目的した規定と見るべきだ。「台湾独立」に対しては、2005年成立の「反国家分裂法」があり、台湾海峡の法的地位と結びつけるのは無理がある。

中国にアメリカ軍艦を阻止する意思と能力はない

結論を急ぐ。その狙いは、①国際法に規定されていない「国際水域」を否定し、国連海洋法条約に未加盟のアメリカの「弱点」を突くこと。国際法を順守せず「砲艦外交」を展開しているのは、中国ではなくアメリカとの政治的メッセージを発信、②中国は、バイデン米政権が「一つの中国」政策の「空洞化」を狙っていると警戒する。これを機に「台湾海峡両岸は統一していないといえども、中国の主権・領土は分裂していない」という現状認識に基づき、台湾海峡の主権を強調し「空洞化」を牽制、③中国外務省は「他国の関連海域での合法的権利を尊重する」と、外国船舶の通過通航権を認める方針を示した。UNCLOSの排他的経済水域での航行に関する規定は、公海と同じ扱いであり、軍艦と商船の区別はない。アメリカ軍艦の海峡通過にはこれまで同様、抗議するものの、阻止行動に出る意思も能力もない、ということだ。

今回の法的定位は、より深刻な問題も提起した。それは「中国の主権・領土は分裂していない」という現状認識は、「(中国が)実効支配していない海域(台湾)で、第三国の船舶航行に対し、非支配側(中国)が異議を唱え、行動を制約することは可能か」という、法的で政治的な問いである。

アメリカは「1つの中国」政策の順守を約束しているが、台湾問題を「中国の内政問題」とする中国の立場を認める可能性は低い。台湾をめぐる米中双方の軍事的、政治的力関係が大きく変化するまで、「法的定位」をめぐる米中確執は継続する。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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