「台湾海峡は中国主権」発言で見える中国の思惑 国連海洋法条約に未加盟のアメリカの弱点を突く

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アメリカも台湾の立場を支持した。ロイター通信は2022年6月15日の記事(「U.S. rebuffs China by calling Taiwan Strait an international waterway」)で「国務省のプライス報道官は、ロイター記者のEメールに『台湾海峡は国際水路(international waterway)である。台湾海峡は、国際法の下で高度な航行の自由と飛行の自由が保証されている』」と書いたとし「アメリカは台湾海峡を国際水路とする台湾の主張を支持し、戦略的な航行に対し中国は主権を行使するとの中国側主張を拒否した」と伝えた。

ここで注意してほしいのは、「国際水域」(international waters)という用語は、国連海洋法条約(UNCLOS)に規定はない。その点で中国側の主張は正しい。プライス報道官もそれを意識したのか、ロイター記者への回答では「international waterway」(国際水路)と言い換えている。

アメリカが行う「砲艦外交」

台湾海軍の上陸用舟艇の艦長を務めた張競氏(台湾「中華戦略学会」研究員)によれば、「国際水域」とは、アメリカ海軍の「司令官海戦法ハンドブック」に登場する用語で、アメリカ軍が一方的に定義した概念という。ロイターの記事は「(アメリカ政府は)戦略的な航行に対し、中国は主権を行使するとの中国側主張を拒否した」と書く。「戦略的航行」とはアメリカ軍艦の台湾海峡通過を指す。アメリカのインド太平洋軍は、台湾をめぐる米中関係激化する中、2017年には年1回に過ぎなかった米軍艦の台湾海峡通過を、2019~20年から平均月1回に激増させた。

通過の目的は何か。アメリカは1970年代から他国が領海や排他的経済水域といった海洋権益を「過剰に主張している」と判断した場合、それを認めない意思表示のため、海域を航行する「航行の自由」作戦を展開してきた。

台湾海峡通過は「自由航行」原則に基づく航行であり、南シナ海で展開する「自由航行作戦」ではない。しかし先に引用した台湾海軍出身の張競は、台湾海峡通過は、アメリカの国防予算に関する「国防授権法」に定められた「軍事行動」であり、海洋覇権を維持するための「砲艦外交」と見なしている。

ところで、アメリカがUNCLOSに加盟していないことはあまり知られていない。その理由は「海洋覇権」を維持するうえで、有利ではない「領海12海里」や「200海里排他的経済水域」に反対しているからだ。

アメリカは、「法の支配」を強調し中国が不法に「自由で開かれた」海洋秩序を破壊しているとの印象を拡散しているが、アメリカ自身が国際的に広く承認されているUNCLOSに入っていない。だから、他国の領海12海里に侵入しても「違法性はない」と主張できる。

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